山川菊荣と母性保护论争.docVIP

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山川菊荣と母性保护论争

山川菊栄と母性保護論争 -理想の社会と理想の女性像- 3年 新田あゆみ 1.山川菊栄 山川菊栄は戦前から活躍した婦人社会主義運動家のひとりである。水戸彰考館総裁を務めた曾祖父を持ち、その血をひく母から、厳格ながらも当時としては珍しい自立的な婦人になるように教育され育った。幼い頃から新聞や中江兆民の書に親しみ、東京府立二女(1)から女子英学塾(2)へ進学、そこで身をもって女子教育の必要性、重要性を感じるが「賢母良妻というお念仏」(3)を唱える学校の教育には疑問を抱く。そこで学校卒業後、堺利彦、幸徳秋水、大杉栄から積極的に社会主義を学び、『資本主義が生み出した弊害』を冷静に分析、その解決のために、大逆事件(4)後の「冬の時代」の中で社会主義の実現を理想とするようになった。 26歳で同じく社会主義運動家である山川均(5)と結婚。伊藤野枝(6)らと日本最初の婦人団体「赤瀾会」を結成し、第1回メーデーにも携わるなど精力的に婦人問題を研究、戦後には片山哲内閣にて初代婦人少年局長を務める等、生涯婦人問題、婦人解放運動に尽力した。 この論文では、大正時代に繰り広げられた婦人運動家による代表的な論争である「母性保護論争」に対して山川菊栄がどのように分析し、持論を展開していったかを取り上げる。この論争は菊栄が28歳のころに起きたものであり、その後の60年以上続いた生涯において時代に応じ多少変化はしていくものの、彼女の根本にある考えは変わっていないことを示している。 2.母性保護論争  母性保護論争とは、1918年から1919年にかけて与謝野晶子(7)の『女子の徹底した独立』(『婦人公論』大正7年3月号)にて述べられた、国家による育児中の経済的母性保護は要らないという論に対し、平塚らいてう(8)が『母性保護の主張は依頼主義か』で反論したことに端を発し、のちに山川菊栄や山田わか(9)が加わっていった、婦人の育児と職業従事をめぐる論争である。  与謝野晶子は、婦人が経済的に独立しさえすれば育児期にある婦人が職業に従事することは可能であるとした。また、母の職能を尽くしえないほどの貧困者に対して国家が保護することには賛成ではあるものの、母の職能を貧困がゆえに尽くしえない婦人の不幸は本人の努力により予め避けることの出来る不幸とした。したがって、一般的な婦人が育児と職業従事両立のために社会または国家から保護を受けることは不必要であり、有害、屈辱とさえ述べている。 晶子は、彼女の究極的な目的である「婦人の経済的独立」を果たすために婦人における「個人」を強調、婦人に対する教育の自由や職業範囲の拡張の必要性を主張した。(10)また、大多数の職業に従事する婦人が安全に結婚、分娩しうる幸福な時代は、富の分配を公平にする制度を作りさえすれば実現出来るとも主張している。そしてこれらの実現のために最も必要なものとして、婦人の参政権を挙げた。  平塚らいてうは、育児期にある婦人が職業に従事することはそもそも不可能であるとし、それゆえ社会または国家の保護必要性を主張した。  らいてうは旧来の女権運動の不備を補い、婦人解放を一層広義に解釈、婦人における「性」を強調、両性の機会均等から起こる弊害を説き、母たる権利及び母たることに伴う権利を主張した。らいてうによれば、母は生命の源泉であり、母たることにより個人的存在の域を脱して社会的国家的な存在者となっている。したがって「母」を保護することは、婦人一個の幸福のために必要なことばかりではなく、その子供を通じて全社会の幸福のため、全人類の将来のために必要なことなのである。また、らいてうは晶子の「婦人の不幸は予め避けられるもの」という論に反対し、育児期にある婦人の経済的独立はよほど特殊な労働力のある者のほかには不可能であるがゆえ、母の妊娠分娩育児期間における生活の安定は国庫が保障するべきであると主張している。 3.山川菊栄の母性保護論争参加 3-1.女権運動と母権運動に関する見解  与謝野晶子の論の背景には19世紀に世界の大勢となった女権運動がある。また、平塚らいてうの論の背景には20世紀初頭北欧のエレン?ケイ(11)一派から起こった母権運動がある。  女権運動は、山川菊栄によると資本主義勃興に伴う社会的変化に順応する必要上発生し、成長しきったものである。過去半世紀における婦人の知的進歩、能力発達にこの運動の功績は現れた。しかしそれと同時にいわゆる「婦人解放の悲劇」というべきこと(12)も発生してしまった。なぜなら、資本主義下においては婦人における職業の自由が実現されたとしても、婦人は資本家のために提供される安価な労働力とな。つまり、資本主義経済下においては女権論の理想を実現させたとしても、それは資本主義社会に最も順応する自由であるため

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