岩石放射能-J-Stage.PDFVIP

岩 石 放 射 能 特に日本の花崗岩の放射能について 早 瀬 一 一* I.　緒 言 1896年H.Becquerel1)によ りウランの放射能 が発見 され,つゞ いてCurie夫妻(1898年)によ りポロ ニウム,ラ ジウム又S.Curie2),G.C.Schmidt3)によ りトリウムの 放射能が発見 された。 これ らの こと は地質学上 よ り見て も画期 的な発見であ り意義深い ものである。地球 の年齢 の問題,熱 の 問題 に対 し,こ の新 しい武器を用いて最初 に研究 を進 めたのはJolyである。彼の企 は古典に属す る とはいえ,地 殻 の構 造,岩 石鉱物 の年齢等に関 して多 くの先駆的な成果を收めた。放射能 の研究が進む につれて,放 射性物質 は,地 球 の表層部 に比較的多 く,酸性岩,特 に花崗 岩に多 く,塩基性岩 に少 ない ことが明 らかになつた。 かつては工業的にはラジ ウムが主 目的であつた放射性物質 も近年は ウラン,ト リウム としての原子核燃料 資源 として注 目され,各 種 の調査研究が盛 んになつた。花崗岩 は,岩 石放射能 において重要 な存在 であ り,地質学の一分野 として放射能地質学のできつゝ ある今 日,岩石学 と放射能 の境界領域は,注 目すべ き 研究分野 となつた。化学分析 において人工放射性同位元素 を用いていろいろな元素を 追跡す ることは,す でに周知であるが,地 殻中の微量の放射性物質は,天 与の追跡元素で,こ れを用いて更に進んだ 地学研究 をなす ことができるであろ う。 II.　岩石中のRa含 有量 放射能 の地質学 における重要性が認め られStrutt4)(1906,1907),Joly5)(1908,1909)によ り岩石中の Raが測定 された。天然放射性物質 には ウラン系,ト リウム系,ア クチニウム系 の他 にカ リウム,ル ビジ ウム,サ マ リウム等 がある。地質学的には,こ の うち,三系列 とカ リウムが重要で,な かで も,ウ ラン系 列 は同一量の トリウム系列 に比 し放射能 がつ よい。 特 にRaは 岩石中にある量が10-12gr/grあるいはそ れ以下で も測定できるため,初期 の岩石放射能測定 は,主 としてRa含 有量の測定であった。U,Th,Ac 系列 のよ うに,次 々 とい くつかの放射性娘元素 を経 て崩壊 してい く過程には放射平衡 の問題がある。 す な わち,純U-238,U-235,Th-232が崩壊 しは じめた場合,こ れ らそれぞれ の全系列 が定常的に崩壊 をお こす までには一定の時間を要す る。 この時間は,こ れ らの各系列 において最初の元素及び これ と同位元素 の関係 にあるもの以外 の娘元素中で最 も長い半減期 の約10倍である。例えばU系 では,I0(Th-230)が最 長 で半減期 は約8万 年であるか ら約80万年で平衡 に達す る(普通,簡 単に約100万年 で平衡 に達す るとい う)。す なわち,元 素の移動がなければ100万年以上を経た ウラン鉱物 または岩石には,そ れに含 まれ る U-238に対 して一定割合の全娘元素が存在す る。 この量は,壊変係数入に逆比例 し,1grのUと平衡量の Raは3.4×10-7grである。 地質学的に極 めて新 しい岩石鉱物であるか,ま たは風化変質 によ り元素の増 減が起つた場合 の他 は,常 に この割合を保 ち,Raを測定す ることに より平衡 量のUを 算出す ることがで きる。微量のRaを 測定す るには,直接 にRaを 測定す るのでな く,これが α壊変 してできたRnを 測 定す る。Rnは 半減期が3.8日の稀 ガスに属す る気体である。Rnが気体であ り半減期 が 適当であるため に,著 しく測定 し易 く且つ測定の精度 もよい。 この点Th系 のTnやAc系 のAnは,余 りにもその半 *京都大学理学部 地質 学教室 ,地学 難誌 Vol.66No.3 (705),1957