商业Ⅳ－1流通费.PDF

「社会経済学初級」学習資料 No.0 5 商 業 生産された商品は、生産部面から流通部面に移され、消費者によって購買（Ｇ ― Ｗ） されなければならない。そして、消費者に購買されて初めて商品は商品として自らを実現 （Ｗ ― Ｇ）する。逆にいえば、消費者に購買されない商品は潜在的には商品であったが、 結局商品として自らを実現することに失敗し、商品世界から撤廃されざるをえない。 流通部面における商品の実現は、それを通じて投下された資本の回収、しかも通常は投 下された資本額以上の貨幣（利潤）の取得を意味する。逆にいえば、商品の実現の失敗は 投下された資本の回収の失敗を意味し、資本が引き続き資本として存続しうるかどうかの 岐路に立たされることを意味する。 要するに、商品が流通部面をいかに首尾良く通過するかという問題は、資本にとって死 活的に重要な問題なのである。 商品生産が発達し、商品交換の場（市場）が拡大するにつれて、生産者が自分の商品に 対する消費者を素早く見つけることが次第に困難となる。商品の実現が伸びれば伸びるほ ど、生産者は流通部面での商品の維持・管理に追加の費用を投ずることを余儀なくされ、 さらには次の新たな生産をなかなか開始することができず、その間生産設備は遊休化して、 いたずらにその価値を減価させる。 流通部面に生産者と消費者の間を媒介する人々、すなわち商人が現われる。市場が拡大 し、複雑化するにつれて、ますます多くの商人が活躍するようになる。生産者は、自分が 直接商いをすれば手にするであろう貨幣の一部を引き渡してでも商人に自らの商品の販売 を依頼する、あるいは商人に直接商品を売り渡すようになる。 商人は、生産者から引き取った商品を維持・管理する施設（建物、倉庫、陳列棚など） を建設し、施設を管理する要員、消費者を見つけ出す要員、商品を消費者に届ける要員な どを雇用する。ここで重要なことは、商人はこれらのことを商品の価格の範囲内で行わな ければならないということである。つまり、もしこれらのことを行うのに必要な金額を商 品の価格に上乗せするようなことをすれば、商人は恐らく当該商品の購買希望者を見出す ことができないであろう。 Ⅳ－１ 流通費 資本の循環運動において、資本価値は、生産資本として生産部面にとどまるだけでなく、 流通資本、つまり貨幣資本ないし商品資本として流通部面にとどまる。前者の滞留期間が 資本の生産期間をなし、後者の滞留期間が資本の流通期間をなす。いうまでもなく、両者 の合計は、資本循環の総時間を構成する。そして、資本は、時間的経過をともないながら 流通部面を通過するさいに、種々の費用（資本・生産物・労働）を必要とし、これらの費 用を支出しなければならない。これを流通費とよぶ。 1 （１）純粋な流通費 流通過程における資本価値の形態転化（Ｇ ― Ｗ ・Ｗ'―Ｇ') に伴って発生する費用は、 生産物形成＝使用価値形成に直接的なかかわりをいっさいもたないので、流通する商品に 価値を付加することはない。純粋な流通費とは、このような費用であって、売買、簿記、 貨幣などのために支出される費用（資本・生産物・労働）がこれにあたる。 （イ）売買費用― 流通過程における貨幣資本の生産資本への転化および商品資本の貨 幣資本への転化は、資本価値の形式的な形態転化である。この形態転化 （売買行為）が産 業資本家の付随的行為としてなされるか、機能的に分離された商業資本家の自立的行為と してなされるかを問わず、社会の資本、生産物、労働の一部が支出される。この不生産的 な、たんなる流通機能の行為は生産物形成、価値形成と直接的なかかわりがないのだから、 その費用は、資本・生産物・労働の生産的に機能する範囲を縮小せしめるものであり、社 会的には空費 （生産的ではない費用）をなす。この行為が商業資本家の自立的機能となり、 費用の節減が生じる場合でも、それ自体は価値増殖を意味するものではない。資本主義の 現段階では、広告宣伝費、接待費など空費どころか冗費 （社会的に無駄とみなされる費用） に属する売買費用が巨大になっていることは、日常みられるとおりである。 （ロ）簿記費用― 循環的運動を経過しつつある資本価値は、簿記によって確定され、 統制される。この簿記のためにも、社会の資本・生産物・労働の一部が控除されなければ ならない。これも純粋な流通費に属し、資