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駒澤大学文学部心理学科谷口ゼミ 卒業論文の書き方2 卒業論文（心理学）の書き方 ―― 論題を決めるまでに，次のことを十分吟味しておく ―― Ⅰ 論題の決定 １） 自分が興味を持っている問題であること 仮に心理学の問題として重要であると考えられるものでも，自分の興味とあまりにも掛 け離れていた問題であれば，論文をまとめていく過程での様々な困難な問題に打ち勝て得な い。少なくともある程度の情熱を傾けることのできる課題であるかどうか，まず自分で考え てみる必要がある。論文作成の手順を具体的に考えてみて，その一つ一つの仕事に，実際自 分が耐えられるかどうかを考えてみると分かりやすい。 ２） 心理学の理論と具体的に結びついていること 思いつきで研究テーマを決めようとする人が多い。思いつきは，ある面では，独創的なも のを生み出すものであるから，大切ではあるが，心理学のこれまでの事実，理論と全く無関 係な研究テーマでは，心理学の研究とはいい難い。卒業論文は，大学生活４年間の総決算と して論文をまとめる，という意味を持つので，これまでに学習した心理学を，ある特定の領 域で，ある具体的事実，現象について，さらに理解を深めるような 「研究」をし，この経過 と結果とを報告するものと考えるべきである。 研究課題は，その意味から，具体的に従来の心理学の業績，○○理論（または学説）の △△現象，××法則等を，特定の観点から，または方法を幾分変えて，または被験者や概念 の操作を工夫して，新しい結果を導き出す，あるいは他の学説，方法との比較をし，新しい 考察を加え，あるいは従来のものの不備をついて，諸事実を追試，確認する，等々の作業を ともなうものでなくてはならない。 例をあげて考えてみよう。 脳波（脳電図）の研究では，周期 8～13Hz のα波は基礎波 （定常波）と呼ばれているが， この波は，閉眼で，精神安定（または安静）の状態で現れるが，注意時，視覚的識別作業， 演算等の精神活動中には消失して，代わりにβ波という 13Hz 以上の波が現れる，というこ とがAdrian (1933)，Adrian and Matthews (1934) 以来，一般に認められており，脳波関係のテ キストにはみなそのように書かれている。しかし，果たしてそういいきれるか？ということ が問題となりうる。このような事実に疑問をもてば，次に脳波と精神活動との関係について の文献をあさることになる。この場合は，専門のオリジナル文献 （大抵は，学術専門雑誌に 掲載された文献）に広く当たってみる必要がある。その結果は，注意時にも視的識別中にも， 演算中にも，α波が出現する，という報告がたくさんあることが分かる（例えば，Williams, 1940; Walsh, 1953; Short, 1957, etc.）。 では，何故そのような見解，報告は無視され，一般的，正統的なものとみなされずに埋 もれているのか。理由はいろいろ考えられる。まずはじめに Adrian が偉大すぎた，という －1－ 駒澤大学文学部心理学科谷口ゼミ 卒業論文の書き方2 ことも考えられよう。こういう偉い学者に反論するには勇気もいるし，仮に反論しても，世 間（学会）で，なかなか認めてはもらえないものである。あるいは一つの理論，法則，現象 が，非常にきれいに整理されておれば，もっともらしくなり，人はそれを疑うよりも，まず はそれを基礎にして，次の問題に進んだ方がよい，と考えがちである。しかし，科学の世界 では，どんな基礎的で常識的とみえることでも，まず疑ってかかり，自分の手で確認してか ら次の問題に進むのでなくてはならない。大抵はこれを怠るので，後になって様々な問題が 生じてくるのである。またどんな偉大な学者でも，初歩的な誤りを犯すことはある。 アインシュタインが，ヨットをもっと速く走らせようとして，ヨットのセンターボード をノコギリで切断してしまった話がある。またあるときは，物理学上の大発見をしたといっ て興奮しているので話を聞いてみると，実は初等物理の一法則を