第四纪海洋古环境-J-Stage.PDF

地 学雑誌 93-7 (1984) 第四紀海洋古環境 鹿 島沖　SK-　1　の研究 高 柳 洋 吉* Quaternary Marine Paleoenvironment-a Study in Well Off-Kashima SK-1 Yokichi TAKAYANAGI I.　研究の背景 第四紀は最新の地質時代である。その堆積物には地球の近い過去を探 る多種多様な手掛か りが残されて お り,それはまた人類の時代の記録として多分野の研究者の関心を集めている。沿岸浅海域より遠洋深海 底に及ぶ海洋底の堆積物や,熱帯から亜熱帯にかけての低緯度域の潮間帯～亜潮間帯を特徴づけるさんご 礁堆積物には,数年から数十万年あるいは数百万年と時間的規模に相違はあるが,この間の古環境の諸変 動が記録されている。 近年の深海底掘削計画 (Deep Sea Drilling Project, 1968-1975, DSDP ; International Phase of Ocean Drilling, 1975-1984, IPOD) によって,地球 の全海洋 にまたが る大規模 な海洋底掘削が実施 され 中生代特 に白亜紀以降の古海洋変遷 のあ らす じが把握で きるまでに知識 は拡大 した。 また第 四紀古海洋 に 関 しては,CLIMAP計画でなし遂げ られた貢献が 目立っている。 この計画 の本来 の長い表 題 で あ る Climate/Long Range Investigation, Mapping and Predictions (気候長期研究 ・図化 ・予測)が 示す よ うに,これ は気候変動 の機構 を明 らかにす るのが 目的であ り,18,000年前の8月 における地球表面の状態 図を提示 した ことで広 く知 られてい る(CLIMAPProjectMember1976).このグループの成果について は,別 にまとまった報告(CLINEandHAYS1976)があるので多言を要 しないであろ う。 CLIMAPの大がか りな研究 の過程で,過 去 の海洋表面の状態 を復元す る手法 として,Imbrieを中心 と す る研究者達 によって提案 された変換関数(TransferFunction)法は(IMBRIEandKIPP1977;ほか), かつてEMILIANI(1955)が提 唱した酸素 同位体層位学 と並んで,そ の後の微化石に よる古海洋研究にお いて重要 な手段 となってい る。 この方法は,海 洋底表層堆積物 に含 まれ るプ ランク トンの遺骸群集 を表層 水 の海洋学的パ ラメータ と関連づ け,そ の関係 を堆積物 コア中の化石群集 の解析に応用 して,後 期第四紀 の水温及び塩分の具体的推定値 を求める変換 関数の形で表現 した ものである。 しか し,この関数の適用範 囲には地域 的限界があ り,IMBRIEらが精度向上に努めた大西洋の関数を他の海洋区に適用 して も誤差が 大 きく,利 用にたえない。 日本列島周辺海域の古海洋研究には,独 自の関数の作成が必要 とな るのであ る。 中緯度域 に位置す る日本列島の周辺海域では,第 四紀において,暖 寒両水系の消長に よる激 しい海況変 動のみな らず,氷 河性の海面変動,あ るいはまた これ らに伴 う生物群 の消長や生物生産 の変動な どが継起 した。その意味で,日本列島周辺海域は,北東太平洋のカ リフォルニア沖合,南西太平洋のニュージー ラ ン ド周辺海域な どと対になって,太 平洋における第 四紀海洋変動 を解明す るための,北 西太平洋 を代表す る拠点的海域である。 さらに 日本列島が背弧海盆 として抱 える日本海の第四紀における変動は,海 洋学的 に独特の興味があるのみな らず,自 然史や人類史上で 日本列島 とアジア大陸 との交流にかかわ る問題を多 * 東北大学理学部地質学古生物学教室 Institute of Geology and Paleontology, Faculty of Science, Tohoku University