総论-日本分析化学会.PDF

化学分析のしかた 総 論 ―化学分析を始める前に― 小 熊 幸 一 を測定して定量する方法。 は じ めに 化学分析（ ）とは，化学種の定性及 ･ 容量分析 chemical analysis 1 2 び/又は定量に用いる操作及び技術であって，これには 滴定操作によって試料溶液中の分析種の全量と定量的 化学的及び/又は物理的な各種の原理に基づいた多くの に反応する標準液の体積を求め，その値から分析種を定 種類がある。時折，物理的な原理に基づいた分析を物理 量する分析法である。滴定に利用する化学反応の種類に 分析とよぶことがあるが，それも化学分析であって，物 よって次の4 種類に分類される。 理分析とよぶのは適切ではない。また，古くは，主に化 1) 中和滴定（酸塩基滴定）酸と塩基との中和反応を 学的な原理に基づく重量分析，容量分析及び物理的な原 利用する滴定。 理に基づく機器分析の3 種類に区分していたが，化学 2) 酸化還元滴定酸化還元反応を利用する滴定。 的な原理に基づく分析も機器を用いて行われることが多 3) 錯滴定錯体の生成又は分解反応を利用する滴定。 くなっているため，日本工業規格の化学分析方法通則 4) 沈殿滴定沈殿の生成又は消滅を利用する滴定。 （  ）では，これらの区分は廃止された。 JIS K0050 2005 本稿では，まず化学分析の主な種類を復習し，次いで ･ 光分析 1 3 定量を目的とした化学分析に共通の基本的なことがらに 光の放射，吸収，散乱などを利用して行う分析法であ ついて解説したい。 る。この分析法には，紫外・可視分光分析，赤外分光分 析，近赤外分光分析，ラマン分光分析，蛍光光度分析， 1 化学分析の種類 原子吸光分析，炎光光度分析，発光分光分析（ICP 発光 1) 分光分析，スパーク放電発光分光分析など），化学発光 主な化学分析には次のようなものがある 。各分析の 詳しい説明については多くの成書があるので参照された 分析などがある。 い。 ･ 電磁気分析 1 4 ･ 重量分析 線，電子線，イオンビーム，電場，磁場などを分 1 1 X 定量したい成分（これを分析種とよぶ）を一定の組成 析種に作用させて，分子，原子などについての情報を得 の純物質として分離し，その質量又は残りの部分の質量 る分析法である。これには次のようなものがある。X から分析種を定量する分析法である。重量分析は，分析 線回折分析，蛍光 線分析，電子線マイクロアナリシ X 種の分離法によって次の3 種類に分類さ