川端康成-言语处理学会.PDFVIP

言語処理学会 第21回年次大会 発表論文集 (2015年3月) 川端康成「山の音」の代筆疑惑検証 ―計量文体学の観点から― † ‡ 孫昊 金明哲 †‡同志社大学 文化情報学研究科 Email:{sonnkou1985@, mjin@mail.doshisha.ac.jp} 0. はじめに 読点の打ち方は文章の書き手の特徴を反映す 川端康成（1899～1972）は日本初のノーベル文 る有力な特徴量として既に実証された（Jin and 学賞受賞者であり、数多くの名作を後世に残した。 Murakami 1993）。村上(2001)は読点の打ち方を しかし、その一部には代筆疑惑が取り上げられ、 用いて分析し、川端康成の作品は 「山の音」から 現在まで議論されている。従来の文学の観点にお 変化し始めたことがわかった。この「山の音」は ける川端康成の代筆研究方法は主に 2 通りあり、 三島由紀夫の代筆という説もあり、本研究では 一つは史料に基づいた研究、すなわち川端康成本 「山の音」の代筆疑惑を計量文体学の観点から検 人が書いた代筆依頼の書簡もしくは関係者の証 証する。 言に基づいた研究である。もう一つは文学研究者 の長年培ってきた文体に関する鋭い観察力に基 2. 「山の音」について づいた研究である。ところが、川端康成の代筆依 「山の音」は川端康成戦後初の小説である。当 頼書簡があったとしても、本人にその代筆の殆ど 初「山の音」の14 章はそれぞれ昭和24 年9 月か を書き換えられ、代筆というより川端康成本人の ら昭和29 年 1 月にかけて複数の雑誌に発表され 作品と見なすべき可能性もある。なお、文学研究 た。各章の発表時期及び初出雑誌を表 1 に示す。 者の観察力に基づいた研究では、その結論は研究 者によってまちまちで、曖昧な結論しか得られな 表1 「山の音」各章初出雑誌表 い場合もある。したがって、代筆問題の研究に関 発表時期 章 雑誌名 しては、このような従来の研究法は不十分で、文 昭和24.9 山の音 改造文芸 昭和24.10 蝉の羽 群像 章の特徴から客観的に文体を分析するのが必要 昭和24.10 雲の炎 新潮 である。 昭和24.12 栗の実 世界春秋 昭和25.4 島の夢 改造 1. 先行研究 昭和25.5 冬の桜 新潮 日本語文体計量分析に有効な特徴量として、読 昭和26.10 朝の水 文学界 点の打ち方（Jin and Murakami 1993）、形態素 昭和27.3 夜の声 群像 昭和27.6 春の鐘 別冊文芸春秋 タグのn-gram 分布(金 2004)、文節パターン （金 昭和27.10 鳥の家 新潮 2013）などが提案されている。 昭和28.1 都の苑 新潮 川端康成は 1960～1961 年睡眠薬を常用し、彼