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法学・法理論・法哲学
―その関連についての覚書―
松 村 格
はじめに
(1)私の研究生活は、刑法という法分野で始まった。修士論文の研究
テーマは、誤想防衛を中心とする「違法阻却事由の錯誤」で、犯罪論
(Verbrechenslehre)のなかの責任論(Schuldlehre)の問題である。そして、日
本の通説とは反対に、ドイツのHans Welzel に従い、誤想防衛を責任説
(Sculdtheorie)の立場から違法性の錯誤として扱った①。したがって、この
とき責任説という「理論」(Theorie)を研究したことになる。しかし、大学
院法学研究科における私の所属は、「刑法学」 専攻
(Strafrechtswissenschaft)
の研究室であった。「刑法学」とは、まさに実証主義的な「刑法教義学」
(Strafrechtsdogmatik)である。
(2)やがて、Welzel に従うならば、彼の唱導する目的的行為論(fi nale
Handlungslehre)を徹底的に研究するべく、その研究をすることにした②。と
ころが、この目的的行為論は意味志向性(Sinnintentionalität)論であり、しか
もその志向性は、Welzel によると生物学的に基礎づけられていたので③、
八 二
私は、彼の刑法学以外の論文を読破しなければならないと考え、彼の実践
的な刑法学論文ではなく、彼の目的的行為論という刑法学を基礎づけてい
る「法哲学」(Rechtsphilosophie)関係の論文を読み始めた④。
(3)つまり私は、「刑法学」を研究するために、Welzel の「(刑)法理論」
に寄り添い、更に彼の「法哲学」に首を突っ込んだのである。しかも、彼
62 法学・法理論・法哲学(松村)
の刑法理論を支える「事物論理的構造」論という法哲学的見解を理解す
るために、比較文献として、事物の本性に関するGustav Radbruch, Arthur
Kaufman, Karl Engisch, Helmut Coing, Herbert Schambeck, Welner Maihofer, な
どの法哲学文献を考察することにしたのである⑤。私の処女論文は、まさ
に「『事物の本性』と目的的行為論の基礎」であり、次いで「正犯と共犯
の事物論理的関係―ヴェルツェルとエンギッシュの論争を中心にー」へと
発展した⑥。
(4)ところが、Welzel は晩年に、目的的行為論は、サイバネティクス行
為論であると言明し、それ以上を語らずに鬼界に入ってしまったので⑦、
私は、この点の問題を自分で検討せざるを得なくなったのである。こうし
て私は、サイバネティクスというシステム理論の世界に入り込み⑧、やが
て一般的システム理論⑨そして社会的システム理論⑩へと進み⑨、かかる
システム理論を根拠とした刑法学方法論を確立しようと試み⑪、更にオー
トポイエーシス(アウトポイエセ)理論にまで視線を伸ばした次第である⑫。
(5)このような変遷を振り返ってみた時、はてさて「(刑)法学」つまり
「(刑)法教義学」と「(刑)法哲学」そして「(刑)法理論」とは如何なる関
係にあるのかという疑問が湧いてきた。研究者生活を終える時期が到来す
ると、増々その疑問が深まってきた。しかし、この問題は、基礎法学の専
門分野の問題であり、特段に刑法という実定法の分野で生きてきた私には、
解くことのできない問題であるが、何らかの納得でき
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