松宏近藤阳一松崇松金子.PDF

山野研究紀要 第17 号 2009 42 原病學各論 ―亞爾蔑聯斯の講義録―第 36 編 On Particular Pathology – A Lecture on Ermerins (36) – 松 宏 1) 近藤 陽一 2) 松 崇 3) 松 金子 4) 抄 録 明治 9(1876)年１月に，大阪で発行された，オランダ医師エルメレンス（Christian Jacob Ermerins ：亞爾蔑 聯斯または越尓蔑嗹斯と記す， (1841－1879)による講義録の『日講記聞 原病學各論 巻十一』の原文の一部 を紹介し，その全現代語訳文と解説を加え，一部では，歴史的変遷，時代背景についても言及した．本編では， 『原病學各論 巻十一』の「泌尿器病編」の中の，「第三 腎盂輸尿管及膀胱諸病」の中の「膀胱加答流」，「義 膜性及侵蝕性膀胱炎」，「膀胱癌」，「膀胱結核」および「膀胱出血」について記載する．各疾患の病態生理や 症候論の部分は，かなり詳細に記されているが，炎症や腫瘍（新生物）の概念が確立されていない．また，治療 法では，内科的対症療法がその主流であって，使用される薬剤も限られている．しかし，この書籍は，わが国近 代医学のあけぼのの時代の，医学の教科書である． キーワード：明治初期医学書，蘭醫エルメレンス，膀胱加答流，膀胱癌，膀胱結核 第４６章 原病學各論 巻十一（泌尿器病篇） 急性ニ在テハ，膀胱ノ粘膜發赤腫脹シテ，粘液様液中 ニ，血液ヲ混セル者ヲ分泌シ，久キヲ經レハ，粘膜ノ オランダ医師エルメレンスが，大阪公立病院(大阪府 一部剥脱シテ，遂ニ潰瘍ト為リ，膀胱壁ヲ穿貫シテ， 病院)で，毎週土曜日に行った講義のノートを，整理・ 直腸，腟若クハ腹腔内ニ通スル 有リ．而其經過ノ 記載した『原病學各論』は，『日講記聞』として，明 治 9 (1876)年に出版された．その『巻十一』には，泌 幸ナル者ハ，能ク治ニ就ク 有レ ，或ハ荏苒，瀰久 尿器病篇(つづき)が収められていて，本章では，その シテ慢性ニ轉スル者アリ． 中の，『第三 腎盂輸尿管及膀胱諸病』の中の，「膀 慢性ニ在テハ，其粘膜褐色ト為テ，稠厚ナル粘液之レ 胱加答流」， 「義膜性及侵食性膀胱炎」，「膀胱癌」， ヲ覆ヒ，久キニ至レハ膿汁ヲ分泌シ，然ル者ニ於テハ， 「膀胱結核」および「膀胱出血」についての記載を取 膀胱ノ壁漸々肥厚シテ，其腔内大ニ狭小ト為ル．又 1・16） り上げる(図 1～3) ． 人ノ膀胱加答流ハ，縷々膀胱ヲ兼發シテ，尿欝積 ノ為ニ膨大シ，其尿ハ悪臭酷厲ニ変シテ，粘膜ヲ剌戟 シ，遂ニ潰瘍若クハ壊疽ヲ生，膀胱ヲ穿破シ，外圍 第三 腎盂輸尿管膀胱諸病 (つづき) ノ結締織ニ汎濫シテ，恥骨部若クハ會 ニ瘻管ヲ生シ， 或ハ腹腔内ニ浸淫シテ瀕死ノ腹膜炎ヲ発スル 有リ． (ﾆ)膀胱加答流 又或症ニ於テハ，輸尿