国民の将来不安の払拭と内需創造型経済への転換を阻む社会保障税一体改革.PDFVIP

● ● －自治総研通巻395号 2011年９月号－ 国民の「将来不安」の払拭と内需創造型経済 への転換を阻む「社会保障・税一体改革」 ― 中低所得層の給付抑制 ・負担増と大企業 ・高所得層の負担軽減 ― 町 田 俊 彦 はじめに 菅首相は、財務相時代から「ギリシャ危機」の教訓を理由とした財務省の消費税増税に よる財政再建戦略に組み込まれた。民主党政権の第２代首相に就任した菅直人氏が、2010 年７月11日の参議院選挙を前に、社会保障の強化の方向について示すことなく、財政再建 最優先の立場から消費税率の10％への引き上げを提起した結果、民主党は参議院選挙で大 敗し、衆議院と参議院のねじれ状態を招いた。 そこで菅首相は消費税の大幅増税を合理化するために、改めて「社会保障・税一体改 革」という議論の枠組みを設定した。2010年10月に政府・与党社会保障改革検討本部（本 部長＝菅首相）を設置、同年11月から12月にかけて社会保障改革に関する集中検討会議を 開催、12月に社会保障改革の「３つの理念」「５つの原則」を盛り込んだ報告を行った。 政府・与党社会保障改革検討本部は、2010年12月10日の会合で2011年６月までに年金な ど社会保障制度の改革と消費税増税を含む税制改革の具体案をまとめることを決めた。併 せて消費税を社会保障給付の中心となる財源に位置づけ、社会保障目的税として明確にす ることで合意した。12月14日にはこの改革の基本方針が閣議決定された。社会保障の全分 野の抜本的改革案は半年程度で結論が出る性格のものではない。それにもかかわらず半年 後という早期に決定の期限を設定したのは、消費税増税が主目的であり、それを合理化す る限りでの社会保障改革案の策定を求めたことを示している。「新成長戦略」（2010年６ 月閣議決定）に掲げた「強い社会保障」の実現は、国民の「将来不安」の払拭を狙いとし ているが、財政再建を最優先する消費税増税による社会保障・税一体改革では、後景に退 く。 2011年に入ると、菅首相は消費税増税にむけての社会保障・税一体改革の議論を加速化 － 22 － ● ● －自治総研通巻395号 2011年９月号－ するため、１月の第２次改造内閣で国民新党の与謝野馨氏を一本釣りして経済財政相に据 え、一体改革を担当する特命相とした。与謝野氏は、自民党時代には最も強硬な「消費税 増税による財政再建」派であり、消費税の社会保障目的税化を主張してきた。自民党政権 時代から民主党を罵倒してきた与謝野氏を社会保障・税一体改革を担当する大臣に据えた ことは、改革の主な狙いが消費税の大幅増税にあることを端的に示した。 与謝野氏は、経済財政相に就任して以降、社会保障・税一体改革案の作成を主導してい く。与謝野経済財政相は、自民党政権の経済財政諮問会議に類似 した組織の設置を進言 し た。与謝野氏は、自民党時代に経財相として経済諮問会議などを仕切 ってお り、政治家 と 民間人から構成される会議体では、首相主導で政策決定をしやすいという経験からの進言 であるといわれている(１)。これを受 けて菅首相は、関係 閣僚や与党責任者 のほか、経済 界や労働界、学識経験者 らで構成される「社会保障に関する集中検討会議」（議長＝菅首 相）を設置、２月から検討を開始 した。税制抜本改革案の６月策定、2012年通常国会への 関連法案の提出にむけて、 ４月中に社会保障改革案と必要財源を試算、これを基に具体的