専 門 演 習 - geocities.jp.docVIP

All-star Special Debate　当落予想表事件 １　ケース ■ 東京高判昭和６２年２月１９日判時１２２５号１１１頁?無体集１９巻１号３０頁〔当落予想表事件：控訴審〕 　政治評論家であるＸ（宮川隆義）は、Ｙ（株式会社サンケイ出版…１９８７年株式会社扶桑社に合併）の依頼により、来るべき総選挙において全国１３０選挙区から立候補を予定している者の名簿に、当落の予想をして、○は当選圏内、△は当落線上より上、▲は当落線上より下という趣旨で○△▲の符号を付したＸ原稿を作成し、これを昭和５７年１２月１３日Ｙに交付した。 　Ｙは、雑誌「週間サンケイ」（現在の「ＳＰＡ！」）（１９８３年新年合併号）に、「総合調査、さあ総選挙だ！反角か容角か――１３０全選挙区当落ズバリ予想」なる題名の記事を掲載して、昭和５７年１２月２３日に発売した。この本件記事中に、Ｘ原稿を「１３０選挙区ズバリ予想」の項の記載記事（本件当落予想表）として掲載したが、そこにＸの氏名は表示されておらず、本件記事冒頭には「……以下は本誌が行った当落予想……」との記述がある。また、Ｘ原稿にＸが記載した符号と本件当落予想表に記載されている符号とは一部異なつている（資料参照）。 　Ｘは、著作者人格権（同一性保持権および氏名表示権）の侵害に当たるとして、Ｙに対して、損害賠償および謝罪広告を請求した。 【第一審判旨】請求棄却（東京地判昭和６１年３月３日） 　「Ｘ原稿は、各立候補予定者氏名上に、個別に、当選圏内、当落線上より上、当落線上より下なる同種記載を繰り返す煩雑さを避け、表現の簡略化のために、符号を付したものであり、原告の、知的精神活動の所産と解され、その表現形式にＸの個性が現われていると認められるから、Ｘ著作にかかる著作物ということができる。」 　「本件当落予想表は、佐々木デスク並びに佐藤及び清野両記者が、丸亀弘明を通じて自由民主党関係筋から入手した総選挙立候補予定者名簿をもとに、これにサンケイ新聞各地方支局、北海道新聞、西日本新聞の各地方新聞社、各政党選挙事情通などへの取材により得た情報による加筆訂正を行い、あわせて右情報源のほか選挙当落予想の専門家である原告から入手したＸ原稿をも一つの取材源として当落の予想をして、作成したもので、Ｘ原稿は、本件当落予想表中に換骨奪胎されて、一つの素材として利用されているにすぎないものと認められる。 　なお、本件当落予想表は、Ｘ原稿の当落の予想と同一の部分も相当数あるが、それが、衆議院議員の選挙についての当落予想表という性格上、Ｙにおいて、前記のとおりの各取材源からの情報を総合してなした予想が、Ｘのそれと同じ結論となることは十分に考えられるところであり、また、ある程度当選が確実視されている立候補者など、何人が当落の予想をしても同じ判断になるであろう部分も相当存するものといえるので、本件当落予想表とＸ原稿の当落の予想が同一である部分が相当数あることをもって、前記認定が左右されるものではない。 　したがって、本件当落予想表は、Ｘ原稿を掲載したもの即ち、Ｘ原稿を複製ないし翻案したものということはできない。」 【控訴審判旨】請求認容 　「Ｘは、株式会社政治広報センター……発行、Ｙ編著の『政治ハンドブツク』（昭和５７年１月版）に記載されている、昭和５５年６月２２日に施行された第３６回総選挙（衆議院議員）の結果分析（立候補者ごとの得票数、得票率、得票増減等）や政治広報センター備付のコンピユータによる判断結果を参考にし、Ｘ自身の政治評論家としての知識、経験に基づいて、総選挙の立候補予定者につき当落の予想をしたが、立候補予定者名簿に、個別に、当選圏内、当落線上より上、当落線上より下という、同種の記載を繰り返す煩雑さを避け、表現の簡略化のために○△▲の符号を付し、また、○の符号については『１』、△の符号については『１マイナス１』、▲の符号については『０プラス１』として換算し（したがつて、△と▲の合計が１となる。）、右により換算したものの和が各選挙区の定員数と同一となるように（ただし、宮城２区、山形２区、兵庫３区を除く。）、右各符号を付してＸ原稿を完成したものであることが認められ……、右認定事実によれば、Ｘ原稿は、国政レベルにおける政治動向の一環としての総選挙の結果予測を立候補予定者の当落という局面から記述したもので、一つの知的精神活動の所産ということができ、しかもそこに表現されたものにはＸの個性が現われていることは明らかであるから、Ｘの著作に係る著作物であると認めるのが相当である。」 　「本件当落予想表には、Ｘ原稿におけると同じく、当選圏内は○、当落線上より上は△、当落線上より下は▲の各符号が立候補予定者氏名の上欄に付されていること、Ｘ原稿と本件当落予想表に