未来へ向かう法―21世紀における社会と法―.docVIP

人　権 １　人権概念の定義 　人権 human rights は、通常、すべての人間に本来的に備わっている権利と理解されている。しかし、その具体的な意味については明確な共通理解が存在するわけではない。わずかに以下の諸点を共通項としてあげうるだけである。①人権は一人ひとりの人間の尊厳dignityと価値を尊重するという考えに依拠している。②人権は普遍的なuniversal性格を持ち、すべての人に平等に適用される。③人権は不可譲のinalienable権利である。つまり、人権は誰からも奪われない。ただ、特定の状況下では、人権も制限される場合がある（たとえば、法廷で有罪判決を受けた人間は自由権を制限される）。④人権は不可分性indivisible、相互関係性interrelated、相互依存性interdependentを有する。 ２　人権思想の起源 　人権 human rights という概念が成立したのは比較的最近で、それが世界の共通言語になったのは第二次世界大戦と国際連合の創立（1945）以後のことである。もちろん、人権の歴史を第2次世界大戦以前に遡ることは可能である。それ以前には自然権 natural rightsや「人権」 rights of Manなどの用語が存在した。しかし、第2次世界大戦後、それらに代えてhuman rightsが用いられ、その概念的意味も変化?発展した。要するに、それは伝統的な自然権や「人権」の理念を継承しつつ、これらが内包する限界を克服するため新たに登場したのである。ここではそうした人権概念の歴史を簡単に振り返ってみたい。 人権概念の起源は、古代ギリシアやローマにまで遡ることができる。とくにソフィストの一人アルキダマス（BC375頃死去、アテネ）が“神はすべての人間を平等に造りたもうた”、“奴隷制度は事物の本性（自然）に反する”と主張したときから自然法の歴史が始まったといわれている。その後、ローマがギリシアから自然法思想を受け入れ、ローマ市民以外の人間（外国人）にも普遍的な権利を認めた。ここから発展した法体系を万民法という。古代ローマの法学者ウルピアヌスによれば、「自然法とは、自然が、ローマ市民であれ、非ローマ市民であれ、すべての人間に対して保証するもの」であった。 　中世ヨーロッパでは、自然法思想はキリスト教思想と密接に結び付きながら発展した。それは当時の＜神の法－自然法―人定法＞という法分類の仕方によく現れている。ここにいう自然法は神の法のうち人間の理性が部分的に理解できたものである。したがって、神の法＝自然法ということもできる。この時代の自然法は「神」によって根拠付けられていることに留意してほしい。 　しかし、16世紀以降、自然法思想は次第に宗教から分離していく。その出発点となったのはフーゴ?グロチウス（1583-1645）とホッブス（1588-1679）の自然法論であった。そして両者を統合したプーフェンドルフ（1632-1694）によって自然法思想の体系はほぼ完成した。こうした思想発展の契機となったのは宗教改革（1517）－その結果としてのキリスト教分裂－と自然科学による合理主義的方法の発達であった。とくに後者は、17世紀のガリレオの天動説、ニュートンの引力説、デカルトの「方法序説」などが重要である。それは理性、自然法、普遍的秩序への信頼を強めたのである。 　18世紀には近代啓蒙思想が興隆し、人間理性によって根拠づけられた自然法?自然権思想を発展させた。そして、それはついにアメリカ独立宣言（1776）やフランス革命（1789）によって現実化された。こうして人類は最初の人権思想絶頂期を迎えた。 この時期の注目すべき人物は、ロック（1632-1704）、モンテスキュー（1689-1755）、ルソー（1712-1778）などである。このうちロックは、こう主張した。①自然状態では、すべての個人（人民）は人間として一定の自然権＝＜生命?自由?財産に対する権利＞を有する。②人民は、社会契約に基づいて国家を成立させる。③その際、人民は、自然権の執行権限（統治権）を国家に委譲する（しかし、自然権そのものは委譲しない）。④国家が人民の自然権を侵害する場合、人民に革命権が与えられる。 　ロックの影響を受けた人々は、古い社会の宗教的不寛容、検閲などの社会的拘束を非難し、自然?人間性?社会を支配する普遍的な諸原則を発見しようとした。そうした思想の中から、不可譲の「人権」（rights of Man）という考え方が生まれたのである。このような自由主義思想は－イギリス名誉革命（1688）などの実践例とともに－18世紀後半から19世紀初期の西洋社会に大きな影響を与え、アメリカの独立やフランス革命などに理