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日本哲学会第 69 回大会ワークショップ提題 2010/05/16 「高校倫理哲学だからできること」 塩川千夏（成蹊中学?高等学校） 私は今回のワークショップで唯一の高校の人間ですが、未来志向の提題が続いた後で、単に今 の学校の条件下の授業例などをするのは、バランスの悪いことです。私としては、高校の教育環 境や教科「倫理」の特質からその条件のどこを生かせるか、またどういう改善が必要なのかとい うことを考えたいです。 日頃、高校生に接しているものとして、哲学教育の可能性をどう考えるか。今回は、前の二つ の提題をふまえて、ひろい意味での対話性ということに着目してみます。広い意味での対話性に は、河野先生のご提題に含まれるような、生徒の活動を中心とし生徒同士の議論を通して、公民 的資質を育てるということも含まれますが、また木阪先生のご提題にあったように、あるテーマ をめぐる文化圏を超えた思想的対話ということも含めて考えたいからです。異なる思想?考えが 出会い、何かがおこる、そのいわば哲学的現場は、高校生の生活と学びの場である学校で、どの ように構想、イメージできるのでしょうか。 哲学教育における対話性の諸相を、まずごく具体的に考えていきたいと思います。その後で、 高校という磁場で哲学分野が何をなしうるか、考えたいと思います。例にあげるのは、源流思想 の定番ソクラテス、対話教育の元祖ともいえる「哲学者」を高校生に紹介し、彼等自身の生活と 思考の空間にひきこむプロセスです。（とはいえ私は特別、対話教育をしているわけではないの で、教育方法の話をするわけではなく、あくまで対話性について考えるための材料です）古代ギ リシャといわれても、必修世界史を近代から扱う学校もあり、イメージさえ持ちにくかったりし ます。そこで資料１のように導入としてソクラテスの生き方と主張の説明に加えて、マンガでの ソクラテスイメージも提示しておくと、生徒も話に入りやすい。実はこの資料の作品は、時空を こえてさまざまな時代や場所に現れる「不思議な少年」を狂言まわしにして、多様な人間ドラマ のひとコマを切り取るといった設定なのですが、「ソクラテス」という章は、死刑を待つソクラ テスが一時現代につれてこられ、ソクラテス的対話の現在性にふれるというプロットです。少々 ナイーブなところもある話しですが、作者はよく勉強して書いたなという内容で、あとで生徒に やってもらう課題の下敷きにもなります。その上で資料２のように対話篇のテクストを、これは 『ラケス』ですが、役割をふって生徒に読んでもらう。生徒に、にわか「ソクラテス」や「将軍」 になってもらって、その「演技」をクラスで楽しむことで、生徒が身をおいて思考できるイメー ジ空間をひらくのです。講義でソクラテスの思考の方向をある程度見定めた上で、こんどは課題 として、現代にやってきたソクラテス、という設定で対話を自由に考えさせ、レポートや試験の 記述をよく書かせています。課題の条件として、「やさしい」「正しい」「頭が良い」など価値に かかわるテーマについて展開する、対話がソクラテス的であることを重視する、ということを示 します。事前に対話編のパロディで関心をひいてもらうこともあります。次の資料４、５が生徒 の考えた現代の「対話篇」です。面白い例をあげましたが「高校生裕二とソクラテスの＜頭がい いとはどういうことか＞をめぐる対話」「教育ママと太郎とソクラテスの三者面談」「ソクラテス 気取りの学生とおばあさんの＜親切＞についての対話」「もののけ姫とソクラテスとの自然破壊 をめぐる対話」など、ちょっとこちらには思いつかないものもあります。彼等の生活空間にソク ラテスがやってきたわけです。彼らの設定に応じて、ソクラテスは学校教員のようであったり、 アニメの登場人物となったり、「ソクラテス気取りの学生」となると完全にまがいものですが、 でもなにがしか「ソクラテス的なるもの」がとらえられています。ここでソクラテスは歴史上の 人物ではなく、なかば理念化された存在であり、プロットによって、少しずつアレンジを変えて 登場しているわけです。この「ソクラテスもどき」の登場によって（もどきという自覚が必要と 思いますが）、日常的な言葉に埋め込まれた価値観に反省がくわえられ、臆見的理解の転換が行 われたり、無知の知においこまれたりというのが、話しをつくるパターン