彼女と彼女の猫.pptVIP

Sec.1【イントロダクション】 Sec.２【彼女に日常(にちじょう)】 Sec.３【彼(かれ)の日常(にちじょう)】 Sec.４【彼女の寂(さび)しさ】 Sec.５【彼女と彼女の猫】 * 彼女と彼女の猫。 Their standing points Sec.４【彼女の寂(さび)しさ】 彼女と彼女の猫。 Their standing points Sec.1【イントロダクション】 Sec.２【彼女に日常(にちじょう)】 Sec.３【彼(かれ)の日常(にちじょう)】 Sec.５【彼女と彼女の猫】 彼女と彼女の猫。 季節(きせつ)は春(はる)の初(はじ)めて、 その日(ひ)は雨(あめ)だった。 だから彼女(かのじょ)の髪(かみ)も、 僕(ぼく)の体(からだ)も重く(おもく)湿(しめ)り。 辺(あた)りの雨(あめ)とてもいい匂(にお)いが満(み)ちた。 地軸(ちじく)が音(おと)をなくして、ひっそりと回転(かいてん)して、彼女と僕(ぼく)の体温(たいおん)は世界の中で静かに失(うしな)い続(つづ)けていた 「ただいま留(る)守(す)しています、ご用件(ようけん)をどうぞ」 その日、僕は彼女に拾(ひろ)われた。 だから仆は彼女の猫だ。 彼女と彼女の猫。 彼女は、母親(ははおや)のように優(やさ)しく、 恋人(こいびと)のように美(うつく)しかった。 だから、僕はすぐに彼女のことが好きになった。 彼女は一人暮(ひとりぐ)らしで、毎朝仕事に出(で)かける。 仕事の内容(ないよう)は知(し)らない、興味(きょうみ)もない。 でも、僕は朝部屋(あさへや)を出(で)て行(い)く彼女の姿(すがた)が凄(すご)く好きだ。 彼女と彼女の猫。 きちんと束(たば)ねた長(なが)い髪(かみ)、かすかな化粧(けしょう)と香水(こうすい)の匂(にお)い。 彼女は僕の頭(あたま)に手(て)を載(の)せて、 「行ってくるね。」 と声(こえ)を出(だ)して、 背筋(せすじ)をぴんと伸(の)ばして、 気持(きも)ちのいい靴音(くつおと)を響(ひび)かせて、 重(おも)い鉄(てつ)のドアを開(あ)ける。 雨(あめ)に濡(ぬ)れた朝(あさ)の草(くさ)むらの匂(にお)いが、しばらく残(のこ)る。 彼女と彼女の猫。 夏(なつ)が来(き)て、僕(ぼく)にもガールフレンドができた。 子猫(こねこ)のミミだ。 ミミは小(ちい)さくて、可愛(かわい)くて、 甘(あま)えるのが凄(すご)く上手(じょうず)で。 でも、僕(ぼく)はやっぱり、僕(ぼく)の彼女みたいな大人(おとな)っぽい女(おんな)の人(ひと)のほうが好きだ。 彼女と彼女の猫。 「ねえ、チョビ。」何(なに)、ミミ？ 「結婚(けっこん)して」ねえ、ミミ、何度(なんど)も言(い)ったけど、僕(ぼく)は大人(おとな)の恋人(こいびと)がいるんだ。 「うそ。」うそじゃないよ。 「あわせて。」ダメだよ。 「どうして？」ね、みみ、何度(なんど)も言(い)ったけど、こういう話(はなし)はもっと君が大人(おとな)になってから、とか何(なん)とか。 こんな話(はなし)がずっと続(つづ)く。 「また遊びに来てね。」 「絶対(ぜったい)来てね。」 「ほんとに来てね」 「ほんとに、ほんとに来てね。」 彼女と彼女の猫。 こんな風(ふう)に、僕の初(はじ)めての夏(なつ)は過(す)ぎ。 だんだん涼(すず)しい風(かぜ)が吹(ふ)くようになって、そういうある日、長(なが)い長(なが)い電話(でんわ)の後(あと)、彼女が泣(な)いた。 僕には理由(りゆう)は分(わ)からない、でも、僕の隣で、長い時間泣(な)いた。 悪(わり)いのは彼女じゃないと思(おも)う。 僕だけはいつも見てる。 彼女は、いつでも、だれより優(やさ)しくて、だれよりも綺麗(きれい)で、だれよりも懸命(けんめい)に生(い)きて。 彼女の声(こえ)が聞(き)こえる。 誰(だれ)か～誰(だれ)か～誰(だれ)か～ 「誰(だれ)か助(たす)けて！」 *