変形性膝関節症の理学療法.PDF

中部リハ雑誌　4；3～6，2009 卒後研修会講演 変形性膝関節症の理学療法 嶋田　誠一・郎 なぜ膝OAなのか 述べ，今後の膝OA患者に対する理学療法の戦略に 　膝研究を進めるようになったきっかけは，上司 ついて私見を述べてゆきたいと考える． からの助言があったからであるが，変形性膝関節 症（膝OA）は，必ずしも著者にとって興味の沸く 関節動揺性をどう制御するか 対象ではなかった．膝OAのメカニズムの解明や治 　内側型OA膝と関節リウマチ（RA）膝に対し， 療が心底重要であると共に面白いと感じるように 横断分析ながらGenucom　Knee　Analysis　Systemとい なったのは，曲がりなりにもデータ収集や学会発 う装置を用いて関節動揺性を計測した．その結果， 表を始めて7－8年が経過してからであった．それ 軽度のOA膝では健常膝に対し前後動揺性が大き は，すなわち本疾患は発症率が極端に高く高齢に く，その一方で中等度および重度のOA膝では，前 なれば殆どのヒトが直面すべき問題であること， 十字靭帯などの弛緩や断裂などの形態学的変化が 発症のメカニズムがよく分っていないこと，経費 あるにもかかわらず前後動揺性が減少していた． がかからず効果的な保存療法の発展とそれが医療 また内外反動揺性は，重症となるにしたがい進行 経済学上にも重要である，などに集約されるだろ する傾向がみられた．対してRA膝では病期に関わ う． らず健常膝に対し前後動揺性は大きく，その動揺 　まず膝OAの理学療法を追求するには，それがど 性の程度は前十字靭帯などの弛緩や断裂の程度が んな病気か広く知ることが重要と思われる．膝OA 反映されていた（図1）．また内外反動揺性は，重 には多くの危険因子が報告されている1）．しかしな 症となるにしたがい進行する傾向がみられた2）．な がら，逆にそれらの危険因子の影響を最小化でき ぜ，膝OAでは前十字靭帯などの損傷の程度が必ず れば膝OAの発症や進展を予防できることにもつな しも前後動揺性の程度に反映しないのかが疑問と がる．そういったことを目標に著者らは膝OAの病 して湧いてくる．これは，前後動揺性が軽度OA膝 態を関節動揺性や筋機能，動作解析などの観点か において十字靭帯の形態学的変化等により増大す ら調べてきた．本稿ではOA膝でどういうことが起 るものの，重度OA膝では軟部組織の拘縮や骨棘が きているのかを主にバイオメカニクス的見地から 形成されることにより小さくなると理解される． 一方，RA膝では骨棘形成などが生じないため，軟 （mm） □・A圏R・ 骨の状態や十字靭帯の形態が関節動揺性に反映さ 20 18 れるのであろう（図2）．関節動揺性は機能低下を 16　！ 14 来たす予測因子として認識されてきている3）． 12 10 　臨床においても膝OAがあっても必ずしも愁訴を 　8