三内丸山遗迹（青森県）.PDFVIP

三内丸山遺跡（青森県） 縄文文化概論 史子 「縄文時代は、約１万年間の長きにわたり続き、日本の歴史の中で一番長い 時代でもありました。そのような長きにわたって形成された縄文文化につ いて、多くの人たちがまだ十分に認識しておらず、まだまだ未開で野蛮な 文化だと思っておりますので、今回、三内丸山遺跡を訪れ、縄文文化に対 する認識を見直していきましょう」 先生「それは、縄文時代に関する研究がまだ浅いということも一因と考えられま す。縄文時代の研究は、 1877 年（明治 10）の大森貝塚 （東京都）の発見か ら始まります。1877 年６月 14 日、アメリカの動物学者エドワード．Ｓ．モ ース は東京大学に招聘され、サンフランシスコから横浜港に到着し、翌日横 浜（桜木町）から東京（新橋）行きの列車に乗りました。彼は、進行方向に 向かって左手に席を取り、窓から見える田園風景に目を転じていました。当 時の列車は、もちろん蒸気機関車であり、そのスピードは時速 30 キロくら いでありました。彼の乗った列車は、大森停車場を通過し、切り通しの場所 にさしかかりました。するとその切り通しの黒色土層の中からたくさんの貝 殻が堆積している部分を発見し、彼は一瞬のうちにそれが貝塚であると気づ きました」 史子 「その後、９月16 日、モースは東大の学生を連れて大森貝塚を訪れ、貝塚 内の土器や貝類の散布状態を観察し事前調査を行い、10 月になってから本 格的な調査を行いました。すると彼の予想通り、貝殻をはじめ獣骨・土器片・ 骨格器などがたくさん出土いたしました。その後、東京大学は 1879 年に 『Shell Mounds of Omori』と『大森介墟古物編』 （邦訳）という報告 書 を 出 版 し 、 そ の 中 で モ ー ス は 縄 目 の 模 様 の 土 器 を 『Cord Marked pottery 』すなわち『縄紋土器』 と呼びました。この大森貝塚の調査は、欧 米流の進んだ技術で行われ、これによって日本の近代的考古学が芽生え、モ ースは日本考古学の産みの親となりました」 先生「Ｅ．Ｓ．モースによって、日本の縄文時代の研究が開始されましたが、そ の後縄文文化の研究に大きく貢献したのは、『縄文学の父』といわれる山内 1 清男氏であります。彼が行った大きな業績は二つあり、その一つは東北地方 における縄文土器の編年的研究で、とくに縄文晩期の亀ヶ岡式土器の分類に 大きな成果をあげました。もう一つは縄文の施文法と施文原体の研究 で、こ れら二つの研究成果により縄文時代の時代区分と縄文の模様によって新旧 の差があることが明確にされました。1983 年８月、カナダで開かれた第 11 回国際人類学民族学連合会議の一部会において、小林達雄氏発表の表題には 『The Father of Jomn Studies，Sugao Yamanouchi 』とあり、山内 氏は縄文研究の第一人者として国際的にも有名になりました」 史子 「旧石器時代から縄文時代への移行は、今から約1 万 2000 年前頃からはじ まり、まず地球の気候が大きく変化してきます。この頃になると、氷河期が 終わり、地球の気温が上昇して、温暖化現象が起こってきます。温暖化にと もない植生や動物相が変わり、氷河の後退によって『縄文海進』とよばれる 海面の上昇が生じます。こうして地形の低い所に海水が流れ込み、内海であ った日本海は大陸から切り離され、現在の地形に近い日本列島が出来上がり ます。とくに縄文早期から前期にかけて海水面は一気に上昇し、その後中期 から海岸線はまた後退しはじめ、遠浅の海をつくりながら徐々に現在の地形 が形成されました」 先生「気候変化の中で、日本列島では 四季のある温暖な気候 となり、針葉樹林な どの寒帯林が少なくなり