シンクロトロン放射光について-鹿儿岛大学工学部机械工学科.DOC

シンクロトロン放射光1) 　運動している荷電粒子の軌跡を外部電場、外部磁場等の力で曲げた際に、電磁波が放出されることはよく知られている物理現象である。物質に電子を加速して照射すると、連続Ｘ線と特性Ｘ線が発生。連続Ｘ線は、入射電子が原子核の電場によってその軌道が曲げられる際に発生し、入射電子の加速電圧をV [kV]とすると、連続Ｘ線の最短波長は、?min = 1.24/V [nm]となる30 kVの加速電圧の場合、?　一方、特性Ｘ線は、入射電子がターゲット原子の軌道電子を叩き出した後、よりエネルギー順位が高い軌道電子が空位になった軌道に入る際に放出される。このとき、エネルギー順位の差を?Eとすると、特性Ｘ線の波長は、??= hc/?Eで表される。ここで、hはプランク定数、cは光の速度である。 ２．２　シンクロトロン放射光の発生原理と性質 　シンクロトロン放射光の発生原理について、電磁気学に従って、荷電粒子が加速された場合に放射される電磁波を考えてみる(2)。空間電荷密度?、電流密度jのとき、スカラーポテンシャル?、ベクトルポテンシャルAについて、以下の式が成り立つ。 上式の解、すなわち、位置x、時刻tのポテンシャルは 、 で与えられ、は遅延時間である。時刻tにおいて位置r(t)を速度vで運動している電荷qの荷電粒子について考えると、電荷および電流はデルタ関数を用いて 、 と表されるから、先に求めたポテンシャルの解に代入して、以下のLienard Wiechertポテンシャルが得られる。 、 ここで、、である。これらのポテンシャルを用いて、以下の電場の強さE、磁場の強さHに関する式 、 を解くと、として、電場、磁場に関して次式を得る。 、 [ ]内の第２項において、荷電粒子の加速度が表れていることから、この項が加速される荷電粒子から放射される電磁波を表すことがわかる（なお、電場の式[ ]内第1項はクーロン場を表す）。 さて、荷電粒子として電子を考え、その運動方向に対して加速度aが直角の場合には、放射される単位立体角あたりの電磁波のパワーの角度分布は、以下のようになる(3)。 図２aに示すように、電子の速度が遅くの時にはであり、運動方向の前後に均一な電磁波が放射される。しかし、荷電粒子が光速に近くのときには、となり、運動方向前方（）に強い電磁波が放射されることがわかる（図２b）。さらには、運動方向に偏向した電磁波の角度を2とすると、で与えられ、電子の速度が光速に近いほど角度が小さい。 　　　　　　　　 　一方、荷電粒子が電子の場合、放射される電磁波の全パワーは、とすると、 となり、電子の速度、加速度で規定される。さらに、電子の軌道に垂直な外部磁場Haによって、電子の軌道を偏向する場合には、より、Eeを電子のエネルギーとすると、以下の式のように、放射パワーは電子のエネルギーと偏向磁場の２乗に比例することがわかる(4)。 　[keV/s] ここで、moは電子の静止質量であり、Baは外部磁束密度である。1012個の1.4 GeVの運動エネルギーを持つ電子が3 Tの偏向磁場で円運動をする場合には、放射パワーは約1 MWとなる。管電圧30 kV、管電流30 mAで運転するＸ線管から放出されるＸ線のパワーを考えてみると、入射電子の運動エネルギーは殆どターゲット物質を加熱する熱エネルギーに費やされ、Ｘ線発生の効率は1％以下であるから、放射されるＸ線のパワーは精々10 Wである。このように、相対論的速度まで加速した電子の軌道を曲げることによって得られるシンクロトロン放射光のパワーは、通常研究で用いているＸ線発生装置から得られるＸ線のパワーより105倍も大きいことになる。 シンクロトロン放射光のスペクトル、すなわち、波長と角度の関数として与えられる単位時間当たりの光子数は以下の式で与えられる(4)。 これをブライトネスと言う。ここで、K1/3、K2/3は変形した第２種ベッセル関数で、である。?cは特性波長（臨界波長）と呼ばれ、円軌道の半径を?Bとすると、 で与えられ、全放射パワーを二分する波長である。これより、臨界エネルギーを定めることができる。例えば、Spring-8では、Ee = 8 GeV、Ba = 0.68 Tであり、臨界波長は0.043 nm、臨界エネルギーは29 keVとなる。 　ブライトネスを角度?で積分して得られる光子数のスペクトル分布は光束（フラックス）と呼ばれ（図７参照）、ブライトネスを光源サイズで割った値を輝度あるいはブリリアンスと言う。先に述べたように、光源サイズは電子のエネルギーが大きいほど小さくなるから、輝度もそれに応じて高くなる。図３に、電流400 mAで、（１）Ee = 1 GeV（? 　0.