非正规労働者.PDFVIP

【特集】 テーマ別にみた労働統計 非正規労働者 神林　　龍 （一橋大学准教授） 1980年代にすでに始まっており，その趨勢は四半世 Ⅰ　はじめに 紀以上にわたって比較的一定している。前者の定義に 非正規労働者に複数の定義があることは，労働問題 よれば，非正規労働者の増加は規制緩和などの一時的 に携わるものにはすでに共通の知識となっているだろ な経済変動と関連すると考えられるが，後者の定義に う。しかし，定義によって増加の趨勢が異なること よれば非正規労働者の増加はより長期的かつ持続的な は，それほど知られていないかもしれない。図1は， 経済構造の変化を念頭において理解するほうがよいこ 総務省『労働力調査』より代表的な2種類の定義に とが示唆される。 よって，非正規労働者の被用者に占める比率の推移を このように，非正規労働者の定義の違いは，単なる 示したものである。 統計的計測の問題や講学上の文などではない。労働市 場において非正規労働者が担う役割と密接に関わる重 要な論点だと考える必要がある。本稿では，政府が所 図1　『労働力調査』より非正規労働者の割合の推移（1984～ 2010年） 管する労働統計を中心に非正規労働者の定義を簡単に 整理し，その違いの一端を明らかにしよう。 Ⅱ　労働時間による定義 政府統計における非正規労働者の定義は大きくわけ て3つの種類があるだろう。うち2つはすでに紹介し た，（A）労働契約期間による分別と（B）職場の呼称 による分別である。残りの系統は（C）労働時間によ る分別である。週35時間未満と絶対水準で基準を設 1） ける方法 や「通常の労働者と比較して勤務時間が 注：『労働力調査』基本集計長期時系列第4表および同詳細集計長期時 短い」と比較対象を設ける方法などいくつか違いがあ 系列第9表より筆者作成。 るものの，短時間しか勤務しない被用者のことを非正 規労働者と定義するとまとめられる。 2つの系列は同じ非正規労働者のシェアの推移を示 一般に日本の政府統計は，被用者のうちわけとして していながら，両者にははっきりとした違い