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公益財団法人 山梨総合研究所 創立１５周年・新世紀甲府城下町研究会設立１０周年 記念シンポジウム 基調講演 甲府城の幻の天守 広島大学大学院文学研究科 教授 三浦 正幸 １ はじめに～甲府城天守閣の復元図 甲府城の天守閣が復元できるのかどうかについて は以前から考えていまして、今回の資料として甲府城 の天守閣の復元図（資料 P9）を作成しました。梁ま で一本ずつ細かく書き込んであり、非常に立派な天守 閣が建っていたことが分かります。400 年前に消滅し た天守閣の姿がどうしてこんなに詳しく分かるのか、 というのが今回のテーマです。 甲府城には今、天守閣の台座、つまり天守台だけが 残っています（資料 P1）。甲府城の図面につきまして は山梨県が作成した実測図がありますが、正確な天守 台のみの実測図はないということでした。このような天下の名城の天守台なのに、精密な 図面がこれくらいしかないということで大変驚いた次第ですが、この実測図によって、こ の天守台の上に驚くべき天守閣が建っていたことが分かるわけです。 少し前までは、甲府城は古めかしい石垣の天守台はあるけれども、本当にその上に天守 閣が建っていたかについては研究者の間でも賛否両論がありました。台座だけ造って上の 天守閣はなかったのではないかというのが通説であったと思います。その後、この天守台 の下から天守のてっぺんに使う鯱瓦の破片が出土しました。帝京大学の萩原三雄先生を委 員長として私も参加しました委員会（甲府城跡保存活用等調査検討委員会）の成果として、 鯱瓦の破片からその鯱鉾を復元すると、とんでもなく大きな鯱（推定 132 ㎝）だと分かり ました。従って、これは天守閣の屋根を飾っていた鯱だと断定でき、天守閣が建っていた ことは歴史的に明らかです。今のところはそこまでだったのですが、では、どのような天 守閣が建っていたのか、今回の復元図（資料 P9）がどのような過程でできたのかを説明し、 甲府城の天守閣の特徴と価値を知っていただこうと思います。おそらく、多くの人が考え ているよりも、甲府城の天守閣の価値ははるかに高いものであると私は思います。 31 公益財団法人 山梨総合研究所 創立１５周年・新世紀甲府城下町研究会設立１０周年 記念シンポジウム ２ 消えた天守閣 まず、甲府城の天守閣の話をする前に、前置きをしておかなければいけません。この天 守閣はいつ建ったのかということです。石垣が大変に古いもので、その石垣の形、形式か ら考えると、今から412 年前の西暦 1600 年、慶長５年に関ヶ原の戦いがありましたが、そ れよりも古い時代に築かれた天守台であるということは間違いなく分かっています。関ヶ 原の戦い（以降、関ヶ原）の前の天守台とすると、誰が造ったかということになりますが、 これも歴史的事実から考えると、豊臣秀吉の親戚筋であった浅野長政、そしてその息子・ 幸長の親子によって建てられた天守閣です。造られた石垣がその時期のものなので天守閣 は当然その時代のものになると思いますが、要するに関ヶ原の前の豊臣政権下における浅 野氏によって建てられた天守閣であろうということまでは、誰が考えても推定できるわけ です。 関ヶ原の後、浅野氏は徳川家康側についたので多大なる功績を認められ、紀伊和歌山藩 の城主に栄転しました。その後は甲府というところは徳川幕府の直轄地、もしくは幕府の 譜代大名の城として明治維新まで存続するわけです。従って徳川幕府の持ち城となった関 ヶ原以降、しかも 17 世紀の前半くらいまでに天守閣が消滅したことになります。つまり、 関ヶ原以前に浅野氏が建てた天守閣は、築 50 年以内にこの世から消えてしまったというこ とが分かります。 天守閣というのはどのくらいの耐用年数があると思いますか？ 今から 400 年前に建っ た姫路城の