旧奉天省辽阳の郷団指导者 袁金铠について.pdfVIP

Title旧奉天省遼陽の郷団指導者 袁金鎧について Author(s)江夏, 由樹 Citation一橋論叢, 100(6): 794-814 Issue Date1988-12-01 Type Departmental Bulletin Paper Text Versionpublisher URL /10086/12608 Right Hitotsubashi University Repository 旧奉天省遼陽の郷団指導者，哀金鎧について 江　　夏　　由　　樹 まえがき 　本稿が考察の対象とする蓑金鎧は，滴末からr満州国」の時代にかけて旧奉 天省で権勢を振るった地方官僚である・辛亥革命前後の奉天省地方権九張作 霧政梅　またr満州国」が各郷村の末端にまでその支配を確立していくため1干 は，まずこの地域の有カ者，地方官僚の協カを必要とした．衰金鎧はそうした 在地勢カの領袖の一人であった． 　東三省は日満戦争，義和団鄭件，さらに日露戦争の際に日本，ロシアの侵略 を受け，その占領の下におかれた一旧奉天省遼陽の有カ者であった蓑金鎧は義 和団事件の時期の混乱の中で，民閲の郷村自衛組織である郷団の指導者として 頭角を現し，日露戦争後には遼陽巡警総局長の地位を獲得した・その後・彼は 1909年（宣統元年）に奉天諮議局議員，ξらにその副議長に選出され・幸亥 革命の際には総督趨爾巽を助けて，この地域の反清運動の弾圧に大きな功綴を 挙げた．辛亥革命後，蓑金鎧は張作霧のもとで奉天軍民両署秘書長，張学艮の もとで東北保安委員会副委員長等を歴任し，r満州国」が成立するや参議府参 議，ついで尚書府犬臣の地位に就いた1）・r満州国」の崩壊後，彼はソビエト に抑留され，その地で病死したと伝えられている2）． 　以上のような経歴を有し，旧奉天省の土着勢カの代表とも言えた蓑金鎧につ いて考察することは，次のような点で意味がある． 　まず，第一は異民族支配との関わりである・1620年代以来・遼東の漢人杜 会は清朝異民族支配のもとにあり，さらに19世紀末以降はロシア，日本に侵 794 　　　　　　　　　1日牽天省遼陽の郷団指導者・蓑金鑓について　　　　　　　（85） 略され，ついには日本の全面的な支配の下に置かれた．遼東の漢人在地勢カは こうした異民族の侵略に対していかなる態度をとり，彼ら在地勢カと清朝，日 本　口㌣アという異民族征服者との間にはいかなる相互依存，あるいは対抗関 係が存在したのであろうか．溝朝及ぴr満州国」に仕えた蓑金鎧について探る ことは，この点で興味深い． 　第二は在地勢カと公権カとの関係についてである．この地域を支配した清朝， 張作霧政権・r満州国」はその公的統治機構の末端に在地勢カを組み込み，彼 らを通じて各郷村の土地，人民を統制する必要があった3）．しかし，こうした 在地勢カのr地方自治的」な支配が拡大すると，公的統治機構の集権的な機能 そのものが堀り崩されてしまう恐れがある．つまり，この地域の支配者は蓑金 鎧等の在地勢カからの協カを必要としたが，同時にこれらの勢カは危険な存在 でもあった．時の敦権によって，あるときは厚遇され，またあるときには冷遇 された蓑金鎧の奉天政界での動きは，こうした公的統治機構と土着勢プ〕との間 に存在した緊張関係を異体的に反映しているとも言えよう． 　第三は東三省の近代史全体の流れとの関わりである．辛亥革命後，東三省の 政権が何度か変わるなかで・在地勢カを率いた蓑金鎧はそれぞれの政権内部で 重要な位置を占めた．したがって，蓑金鎧に焦点をあて，旧奉天省の政治社会 を考察していくことは，辛亥革命前後，張作霧政権，「満州国」の各時代を貫 いて，一つの継続した流れのなかで旧奉天省の歴史を論じることを可能にする． このことは，とかく個別な研究対象とされている上言己の各政権，また各時代を 東三省の近代史のなかに如何に位置づけて理解するかという問魑とも深く関わ ってくる． 　筆者は蓑金鎧について今後いくつかの論文を書く予定でいる．本稿はまずそ の第一歩として，蓑金鎧が奉天地方政界の実カ者としての地位を獲得するきっ かけとなった・遼陽の郷団について主に考察してみたい、