田和山遗迹出土石砚试论.pdfVIP

田和山遺跡出土石硯試論 田和山サポートクラブ会員 堀 晄 はじめに 田和山遺跡は松江市乃白町にある弥生時代中期の遺跡です。この遺跡の概略に ついては別稿「山陰随一のパワースポット 松江の田和山遺跡」を参照してください。こ の遺跡の第一環濠から出土した石硯について、定説に従って楽浪からのものと安易に 考えていましたが、今は別の仮説を持っていますので、それについて述べさせていただ きます。 田和山の石硯と古代書道資料 田和山の石硯が紀元前 200 年ころと推定されているのに対し、前漢の楽浪郡設置 は前 108 年ですから、ちょっと時代が合わないな？という思いがしていました。まぁ古代 のことですから、時間差も許せないわけではありません。しかし前漢時代の中国出土の 石硯を調べていくと、別の可能性が見えてきたのです。それは田和山石硯が中国南部 の呉地域に起源をもち、九州北部の倭から出雲にもたらされたのではないか？という仮 説です。 何しろ田和山石硯は日本最古の書道資料ですし、 文化史上極めて重要ですから、その出自も慎重に考 えねばなりません。日本における古代書道資料は次の ようなものがあります。 田和山遺跡出土石硯片、前200 年ころ 弥生時代中期 前2 世紀ころ 田和山遺跡出土石硯 弥生時代後期 AD57 年 漢倭奴国王印 2 世紀ころ 福岡三雲遺跡出土石硯 津市刻書土器 東大寺山古墳在銘鉄剣(中平・5 月） 3 世紀 卑弥呼（親魏倭王印）未発見 福岡三雲遺跡刻書土器 古墳時代 4 世紀 熊本柳川遺跡墨書短甲 三重嬉野墨書土器 369 年 石上神宮七支刀銘文 この表を見るとわかるように紀元前に位置するのは田和山資料だけです。これは中 国史で言うと前漢時代に相当します。 前漢時代の硯 前漢時代の石硯としては次のような出土が知られています。 1）戦国時代様式の円形タイプ 陝西省句陽県鳳凰山8 号墓 陝西省西安市土門村 上海市青浦県20 号墓 広州市南越王墓 2）漆箱入り長方形タイプ 湖南省長沙市望城坡 山東省臨斤市金雀山 南越王墓出土硯一式、前 125 年 江蘇省連雲港市 分布をみると、中原は円形タイプ、揚子江流域の南中国は長方形タイプが優勢らし く見えます。漆箱などはやはり温暖な南中国の特産だったようです。 呉の太伯と倭 魏呉蜀の三国時代の呉は 222 年に魏の将軍だった孫権が独立、王国をうちたてた ものです。しかし、呉地方の開発はずっと古く、夏王朝の第六代小康の庶子が前 1900 年ころ会稽に封じられたことから始まったとされます（史記）。彼は別名「呉の太伯」と呼 ばれていました。 有名な魏志の種本の一つが魏略です。これは散逸してしまいましたが、一部引用が 残されています（太宰府天満宮所蔵、国宝『翰苑』巻 30）。それによると、「帯方より女 （王）国に至る万二千余里。その俗、男子皆面文を点ず。その旧語を聞くに、自ら太伯 の後という。昔、夏后小康の子、会稽に封ぜられ、断髪文身し、以て咬竜の害を避けり。 今、倭人また文身せるは、以て水害を厭えばなり。」とあります。倭人は自分のことを太 伯の子孫と考えていたと伝えられているのです。 倭とは？ 倭を日本全体、あるいは九州から本州大半を指すと考える人も多いようです。しかし、 中国の文献で言う倭は、はじめは北九州を指す語で、大和、日本等が知られるように なると、それも倭に含めるようになったのです。 隋書倭国伝には「倭国…東