宇宙放射线-JAXA宇宙教育センター.PDF

宇宙放射線 1. 宇宙放射線の概要 私たちが地球を飛び出し、地球周回軌道や太陽周回軌道に乗ると、船外は超高真空、私たち の身の回りすべてが無重力のまさに宇宙の世界となる。さらにそこは、浴びる量や期間によって 人体に重篤な影響も及ぼす高エネルギーの粒子や電磁波が絶え間なく飛び交う環境という現実 もある。実際、私たちの頭上、地球の大気★圏の最外層を越えた先には、高いエネルギーを与え る放射線が今も絶え間なく降り続いている（図 1）。それらは地球外の宇宙からもたらされる放射 線で、実際、宇宙放射線（もしくは、宇宙線）と呼ばれる。その中には地上では通常存在しない種 類の放射線も多く含まれる。 専門的に詳述すれば、宇宙放射線は宇宙環境に存在する電離放射線★であり、X 線やガンマ 線等の電磁波★の他、陽子★、中性子★、電子★、アルファ線★、重粒子★等の粒子線★からな る。 その量は、地上から高度が上がり、各種大気層（対流圏、成層圏、中間圏、熱圏）を過ぎるにつ れ急激に増加する。なぜなら、地上から離れ高度を上げてゆけば、宇宙線と衝突することにより、 エネルギーを拡散、吸収していた大気分子の密度が減少し、また高速で地球進入コースをとって 飛来してきた宇宙からの荷電粒子を地球に到達する前にそのコースを曲げてそらす役目の地球 磁場の強度が下がっていくからである。この２つの地球の持つ特性、物質のおかげで、地球上の 生物は宇宙に普遍的に存在する宇宙放射線からあたかもシェルターに護られるようにして、過去 数十億年、生存、進化の道を歩むことができたと言える。 なお、宇宙放射線を遮蔽する地球大気と地球磁場のそれぞれの果たしている効果の割合につ いて、地球磁場が消滅した場合を見積もると（実際、過去に地球の磁場が消滅した例が地球の歴 史上何回かあったことが分かっているが）、地上での放射線被曝量は 14％程度増加するという。 （図１） 宇宙放射線が地球大気に飛来する模式図： 一次宇宙線は大気分子の原子核と衝突しては核反応を起 こし、その度にエネルギーを与え、それに反比例して持っていたエネルギーを徐々に減弱する。最終的には地上 に到達する前に二次粒子を発生させながら消滅する。結果、地上の生物はそれらを直接浴びることなく日々生活 を営める。（出典：NASA） 注釈★） 地球の大気 ： 1cm2 当り約 1kg に相当する物質が積み重なっている。放射線遮蔽にしばしば用いられる鉛に換算 すると、それは約 90cm、あるいは水なら約 10m の厚さに等しい。 電離放射線 ： 放射線は、物質に当たれば物質内の電子を遊離させる性質を持つ。すなわち電離を起こすので、 特に強調する場合、電離放射線という。 電磁波： 電界と磁界が相互に作用して組み合わされ、空間を伝達する波を指す。その波長の長さに従って、長い 方の X 線、ガンマ線から、紫外線、可視光（光）、さらに赤外線、電波までを含む。 陽子（プロトン：proton）： 中性子と共に原子核を構成する核子の 1 種。プラスの電荷を持つ。質量は電子質量の 約 2 千倍弱に相当する。通常最も多く存在する水素原子の原子核に相当。 中性子（ニュートロン：neutron）： 陽子と共に原子核を構成する核子の 1 種。電荷を持たない。質量は電子質量 の約 2 千倍弱に相当する。 電子（エレクトロン：electron）： 原子核と共に原子を構成する素粒子の 1 種。マイナスの電荷を持つ。質量は中性 子質量の約 2 千分の１強に相当する。 アルファ線： アルファ（α）崩壊によって生じるアルファ粒子の流れ（ビーム）。この粒子は、２個の中性子と２個の 陽子からなるヘリウムの原子核であり、また＋２のプラス電荷を帯びている。 重粒子： ヘリウムより大きい原子核の総称。 粒子線： 電子、陽子、中性子や原子核などの粒子による流れ（ビーム）。 2. ISS 宇宙放射線環境 スペース・シャトルや国際宇宙ステーション（International Space Station: ISS）のように地上高 度 400km 前後の地球周回軌道を持つ宇宙船や、月や火星を往復して惑星間飛行を行う宇宙船 の乗員や搭載物質は地上よりはるかに多い電離放射線を被曝することになる。前者の軌道は低 地球軌道（Low Earth Orbit: LEO)と呼ばれ、重要となる一次放射線源には銀河宇宙線、太陽フレ ア粒子、放射線帯粒子がある。 －(一次)宇宙放射線はその起源や特性、地球に対する位置関係などから次の 3