丛植生概観.PDFVIP

20 叢　植　生　概　観 　山梨県は海岸線をもたないが，海抜100m・以下の低海抜地から富士山塊，赤石山脈の海抜3000 m級の高山まで変化に富んだ地形を形成している。生育する植生も多様な自然環境と人為的干渉 の程度に応じて複雑に入り組み，多彩な群落を形成している。 　ヤブツバキ，ピサカキ，モチノキ，アラカシ，シラカシ，ウラジロガシなど常緑広葉樹を主な 構成種とする植生が自然植生として生育する地域は，ヤブッバキクラス域一常緑広葉樹林帯一 ヤブツバキクラス域は，全国的に東北地方の海岸部を含めた関東以西，四国，九州，琉球列島の 大部分を占める植生域である。温度条件との関係では，ヤブッバキクラス域が吉良による温量指 数85度～180度，寒さの指数一10度以上の地域にほぼあてはまる。 　山梨県に生育する常緑広葉樹林は，富士川およびその支流沿いの，身延町，南部1町，富沢町に多 くみられる。カゴノキ，モチノキも混生するタブ林は海抜400m以下の井手，下野（南部町）な どに生育がわずかにみられるにとどまる。シラカシ，ウラジロガシ，アラカシなどのカシ林は南 斜面で上限を海抜800m前後（三石山他）まで，北斜面でも海抜600m前後まで生育がみられる。 これら常緑広葉樹林が自然植生あるいは自然植生に準じた植生として残存生育するのは武田神社， 身延山などの社寺林か，南部町佐野川沿い，早川町早川沿いなど急峻な河岸断一丁が大部分であ る。シラカシ，アラカシが多い山梨県のカシ林は富士川流域，甲府盆地，県東部の桂川，秋山川， 道志川の流域にみられる。モミ林は身延町の身延山，二等1．Ll（韮崎市）を始め海抜！000～1100 m以下の尾根筋を中心に残存生育している。ヤブッバキクラス域はより温暖な低海抜地であり， その多くが住宅域，農林業の生産緑地であるため自然植生の破壊は著しい。枇寺林，保護地を除 いてスギ植林，ブドウ，モモなど果樹園で代表される代償植生域となっている。 林が霞然植生として広く生育する。夏緑広葉樹林域は，植生学的にブナクラス域Fagetea cre黛atae－Gebietと1乎ばれる。 　ブナクラス域の自然植生として本来広い面積に生育していたブナ林は内陸部に位罎する山梨県 下では，全般的に地形の急駿さも加って広野111に亘って純林を形成していることは少なく，一般 に1300m以上にわずかにみられる。ミズナラを混生したり，ッガ，ウラジロモミを混生する林分 も少なくない。赤石山脈の山麓，金峰山から雲取山の谷あい，大菩薩から小金沢山の東斜面，三 ッ峠，大室山，御坂山などにブナ林，イヌブナ林，ッガやウラジロモミを混生したブナ林，自然 植生としての夏緑広葉樹林の残存林分をみるにとどまる。県南を中心にほぼ全域にわたって植栽 されているスギ槌林，コナラ，ミズナラの二次林，桑畑など耕作地がブナクラス域で広い而積を 占めている。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　21 　海抜1600～1800m以高の亜高山帯はシラビソ，トウヒ，オオシラビソ，コメツガなど亜高山針 葉樹林が自然植生としてよく残されている。一部カラマツ植林，ササ草原などの代償植生で占め られているにとどまる。長野県，静岡県との県境にそって，また甲府盆地をとり囲むように生 育するシラビソ，オオシラビソ，コメツガなどの亜高山針葉樹林が発達する地域とさらにハイ マツ群落や高山荒原がみられる海抜2500m以上の地域は，植生学的にコケモモートウヒクラス 　山梨県の植生は概観的に以下の模式にまとめられる。 　　　　　　　（枢　生　域） （代表する植生）　　（人為的干渉） 　　　　高 　　　　　　　　　　小 　自　然　林 　二　次　林 二次草原 　　　　低　　　　　　　　　　　　　　　　肌、 （耕作地） 大 　山梨県の植生は，以上概観的に考察された特性とともに，富士山の熔岩面上に生育するハリモ ミ林，アカマツ林，ヒノキーツガ林（青木ケ原），野呂川流域のカツラ林，天然カラマツ林，さ