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第３章 地下排水槽 第３章 地下排水槽 ポンプ排水設備は、地下階の下水を自然流下によって直接公共下水道に排除できない場合に設けら れる揚水設備である。近年、ポンプ排水設備、特にビルなどの建築物の地下排水槽からの汚水排水が 原因で、排除先のマンホールのガス抜き穴、周辺建築物の排水設備不良個所などから臭気が噴出し、 悪臭苦情が多く発生している。悪臭が発生する主な原因としては次のとおりである。 （１）排水槽の底部が水平になっているなどの構造上の欠陥が多くみられ、排水槽内の汚水を完全に 空にできないため、一部の汚水や沈殿物が滞留し、腐敗する。 （２）排水槽を設置している地下階には、厨房が多く、油脂類及び厨芥類が温水とともに流入し、腐 敗を早めている。 （３）排水槽に汚水を大量に溜めて、一回で排水している。このためポンプ運転間隔が長くなり、汚 水の腐敗が著しくなる。 （４）排水槽の定期的な清掃が実施されていない。 これらの条件で発生する悪臭は、主として硫化水素（H2S）である。その濃度も夏期において長時 間にわたって貯留された排水槽から、ポンプ運転時に約1800ppm測定された例もある。硫化水素ガス は、悪臭による周辺環境の悪化だけでなく、硫化水素が硫酸（H SO ）に酸化され、排水槽のコンク 2 4 リート壁、ポンプ設備及び公共下水道の管路施設などを損傷させる。したがって、ポンプ排水設備の 計画、設計にあたっては、排水槽の構造、運転制御方法及び運転水位の設定、更に清掃などの維持管 理について考慮する必要がある。 本章は、建築物の地下階の下水を揚水するために設ける湧水槽以外の地下排水槽について述べるが、 ここで、硫化水素による悪臭の発生・人体への影響及び下水道施設の腐食のメカニズムについて述べ る。 （１）悪臭の発生 家庭下水や厨房排水などには有機物を多く含み、この汚水を静止状態で長時間貯留すると、有 機物の分解によって汚水中の溶存酸素量（DO）が消費され嫌気性の状態になる。 このように、排水槽内の汚水が嫌気性状態になると、汚水中に含まれている硫酸塩（SO42 －） は、水面下壁面のスライム中などに生息している硫酸塩還元細菌によって還元され、硫化物 （S2 －） が形成される。 また、汚水中の硫黄化合物の分解によっても硫化物が形成される。形成された硫化物は解離し ていない硫化水素（H2S）と解離した硫化水素イオンとして汚水中に存在することになる。 嫌気性微生物 SO 2 －＋有機物 ―――――→ S2 －＋2H O ＋CO 4 2 2 2S2 －＋4H－ ―――――→ SH S 2 排水槽内で生成された は、汚水中に溶解しており、排水ポンプの起動によって生じる吐出 H S 2 部での衝撃、あるいは公共下水道流下時における段差マンホール部などでの衝撃によって水中か ら下水道管内の気相部へ遊離し、マンホールふたのガス抜穴や排水管の継手不良箇所あるいは封 水破壊したトラップ部などから大気中へ拡散される。硫下水素は腐卵臭を発生するため、これが 住民又は通行人からの悪臭苦情の発生となる。 3 －1 （２）人体への影響 人体が硫化水素ガスの曝露をうけると、その曝露濃度と時間によっては健康上に問題が発生す ることもある。一般的に硫化水素の許容濃度は5ppm以下で、労働安全衛生法の規定では、作業時 の管理濃度は10ppm以下となっている。曝露時間が短く、曝露濃度が600ppm程度以下では、生体 の粘膜の水分に溶け込み、肺から肺毛細血管の血流に吸収され、直ちに酸化されてチオ硫酸塩や 硫酸塩などの無害な形に変化し、体内深く侵入して毒性を発揮するまでは至らない。しかし、 700