又吉栄喜「漁師と歌姫」.pdfVIP

【沖縄大学】 【Okinawa University】 Title又吉栄喜「漁師と歌姫」 Author(s)浜川, 智久仁 Citation地域研究 = Regional Studies(7): 139-143 Issue Date2010-03-31 URL Rights沖縄大学地域研究所 浜川智久仁：書評・又吉栄喜「漁師と歌姫」 書評・又吉栄喜「漁師と歌姫」 浜川智久仁＊ ＢｏｏｋReview：EikiMatayoshi,ＦＩＦ/ie、α〃α‘ｓｏ9s舵３ｓ ＨＡＭＡＧＡＷＡＴｏｍｏｋｕｎｉ 幕を閉じてしまうのだ。 １あらすじ この小説にあって「あっけなさ」はいたる所に見ら 小説の舞台は、沖縄本島の最北端にあるＫ村の諸見 れる。たとえば、正雄の精神的な支柱であり、誇りで 集落。昭和36年のことである。漁師の正雄は20歳で、 ある父親は、登場したときから病気を抱えていたとは 一人小舟に乗って漁をし、収穫物を隣の集落に卸して いえ、あまり能動的な役割をあたえられないままに、 いる。彼は、高校の後輩で、共同売店で働いている和 死んでしまう。作者は淡々とした描写で父親の死を描 子に思いを寄せている。和子が集落の世話役にひょん く。 なことから選ばれたことによって、物語は進んでいく。 正雄を慕う五郎、隣の集落から勝手に正雄に惚れこん 父親は何時間も閉じていた目を開け、爪生、おもし で押しかけてくる行商の娘などのエピソードがからみ ろかったよ」とつぶやくように言った。 あいながら、けつきよくは和子に相手にされない正雄 正雄は何かを言おうとした。父親は力なく、しかし が集落を出て都会に行くところで物語は終わる。 どこか平然と目を閉じた。 簡単にまとめると、漁師であることに誇りを持ち、 世名城から来た初老の医者は正雄の父親の脈をとり、 生まれた集落に愛着を持っている正雄が、和子に翻弄 ゆっくりと首を横に振った。（147ページ） されながらも、最終的には自分のアイデンティティを たしかめるために旅に出る成長物語と言える。 また、正雄に惚れて追いかけ回す行商の娘、美佐枝 にいたっては、恋敵と勝手に思い込んでいる和子の家 ２「あっけない」物語 を馬で荒らしたあと隣集落に帰る途中、崖から馬ごと 物語は、一応の結末をもって終わるのだが、最後ま 落ちたことが原因で唐突に亡くなってしまう。 で読み進んだ読者はある種のあっけなさを感じるかも しれない。物語の中心