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①-23 粉体流　Granular Flow 粉体 　「粉体」とは粉末や粒状体の総称である。砂粒や小麦粉、粉薬、土壌、コピーのトナー等は典型的な粉体の例でありコンクリート等も粉体を固めたという意味で粉体の一種と考えられる。最近ではナノスケールの微粒子を粉体として扱うことも盛んに行われるようになってきたが、伝統的には目に見える巨視的な粒子を粉と呼び、その集合体を粉体としている。このような巨視的な粒子では膨大な内部自由度を抱えるために重心や回転といったマクロな観測可能量で粒子間の相互作用を特徴づけるとエネルギー保存則は成り立たず散逸的にならざる を得ない。また排除体積効果による斥力が主要な役割を果たし、粒子サイズや配置のランダムネスの結果容易に準安定な状態で凍結してしまう。仮に粒径を揃えた球形の粒子を使っても体積分率は一意的には決まらず、最もランダムと思われるランダムパッキング（体積分率0.64程度）を越えて充填することは可能だが結晶化した六方最密充填（体積分率0.74程度）には行き着かない。このようなランダムな粒子配置が準安定に存在することで粉体内には常にランダムかつ異方的な構造が凍結して残っている。例えば粉体を外から押したりずりを加えたりして外力を加えると図１に示す様に力は応力鎖と呼ばれる紐状の領域に沿って伝わり、またその鎖も途中で分裂、融合を繰り返す。 　粉体は構成粒子が大きいだけに重力や摩擦の影響を強く受ける。摩擦があることで任意の面に力を加えた場合にその面に平行な接線応力が働く。そのために粉体は流体の様に「水は方円の器に従う」ことはなく静止状態でも形状を持ち得る。例えば砂はほぼ斥力だけを考えればよいが一定の傾斜角をもった砂山になる。このときの砂山の傾斜角を通常安息角と呼んでいる。（厳密には安息角は流していた粉体が静止する傾斜角度であり静止粉体が流れ出す角度と違う）。また容器に粉体を充填した場合も摩擦によって外壁が粉体の重量を支えるために水の場合と異なり圧力は深さと共に一定値に漸近する。 　粉体の形状もマクロな物性に影響を与える。例えばほぼ球形の粒子では回転のため「砂山」を作るのは困難であるが、砂粒であれば回転は抑制されて砂山を容易に作ることが可能である。またコピーのトナーが静電気で塊になったり、砂浜で遊ぶときに水を含ませることで砂山を強化したりするように斥力の他、引力の効果も無視できない。 粉体のレオロジー 　水辺に近い砂浜でずっと同じところに立っていると水が浮いて来る。一方で水に隠れた砂地を走ると結構固く地面を走っているのと変わらないと思った経験があるだろう。この現象は早い外力を砂に加えると間隙水のネットワークが破壊されて流動能率が落ちることと、準静的な加圧によって地下に潜む水が進入してきて流動能率が上がることを表現している。また地震に伴う流動化現象は早い振動によって砂のネットワークそのものに隙間ができ、そこを伏流水が吹き上がって起きる。このような粉体のレオロジー★（rheology）を調べることが粉体流の研究で最も重要である。 　水のような通常の流体では接線応力と速度勾配は比例する。しかし粉体はそんなに単純ではなく両者の間に比例関係はない。レオロジーの分野では通常の流体より流れにくい、即ち応力を加えることで流動能率が落ちることをダイラタンシーと呼び、流動能率が上がることをチキソトロピーと呼ぶ。既にあげた砂浜の例では砂と水の混相系では場合によってダイラタンシーもチキソトロピーも示すことになるが粉体の単相系では一般にダイラタンシーのみを示す。 　半世紀前にバグノルド(R. A. Bagnold)は高密度の粉体流では接線応力が速度勾配の２乗に比例するとした。[3]バグノルドの理論の正否や適用範囲については今も議論が続いているが最近の詳しい実験によりますますその考え方の有効性が信じられるようになってきている。[4]このような構成方程式の起源は図２を見るといくらか理解できる。図２に示す通り流れている粒子はほぼ流路内に拘束されており気体分子運動論でイメージされるようなランダムな粒子衝突を統計平均した後に見える流れというものとかなり異なる。このような互いに接触した流れでは衝突頻度は層間の速度差、即ち連続化したときの速度勾配に比例すると考えられ、分子運動論と同様に１回の衝突に伴う運動量変化が速度勾配に比例することから接線応力は速度勾配の２乗に比例するというストーリーが信じられている。その他、斜面の傾斜角と流れている粉体層の厚さの間にも簡単な法則性があることが示唆され、滑り線の下側でも深さの指