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大気の化学と地球環境―対流圏化学の最前線―.doc
第11章 対流圏の酸化力
大気は酸化力のある媒質である。大気環境において重要な多くの微量気体が、主に酸化過程によって大気中から除去される。例えば、CH4のような温室効果気体、COのような燃焼によって生成する有毒な気体、HCFCsのような成層圏オゾン破壊の原因となる気体、といったものが例として挙げられる。大気の質量の大半(85%、2.3節参照)は対流圏に存在し、多くの気体は地表面で放出されるため、対流圏中での酸化は極めて重要である。
地球大気に最も多く存在するオキシダント(酸化体)はO2とO3である。これらのオキシダントは分子の結合エネルギーが大きいため、ラジカル類以外とはあまり反応しない(O2との反応は極めて不安定なラジカルに限られる)。多少の例外はあるが、O2やO3による非ラジカル成分の酸化反応は無視できるほど遅い。1950年代の研究により、OHラジカルが成層圏において強いオキシダントであることが初めて明らかになった。OHは多くの還元性の非ラジカル成分と迅速に反応するが、中でも水素原子を含む分子に対しては特に反応性が高い。この反応により水素原子を引き抜くことで、OHはH2Oに変換する。OHは水蒸気とO(1D)の反応により生成される。(10.2.1節参照)
(R1) (R2) (R3)
10章では、成層圏でOHがどのようにして多くの微量気体を酸化するかを述べた。O(1D)の定常状態を仮定することで、(R1)-(R3)の反応によるOHの生成率(POH)を簡単な形で表すことができる。(R2)の反応は、大気中の水蒸気混合比では(R3)の反応よりはるかに速いことが室内実験によって分かっており、以下のように簡略化できる。
(11.1)
(R1)の反応によるO(1D)原子の生成がOHの生成にとって極めて重要な過程である。1970年までは、上空に存在するオゾンにより紫外放射がほぼ完全に吸収されるため、対流圏ではO(1D)の生成は無視できると考えられていた。COやCH4のように地表面から放出される成分は、成層圏へ輸送された後、成層圏でのOHとの反応により酸化されると考えられていた。
(R4) (R5) 空気が対流圏から成層圏へ輸送されるには平均5-10年かかり(4.4.4節)、成層圏には全大気質量の15%しか存在しないため、このメカニズムでは大気中でのCOとCH4の寿命が長いことになる。化石燃料の燃焼により放出されるCOが蓄積し、近い将来、地球規模の大気汚染問題になるという懸念が1960年代に持ち上がっていた。
水酸化ラジカル
11.1.1 対流圏でのOH生成
1970年代初期の大きな発見は、対流圏内でCOやCH4のような成分を酸化するのに充分なOHが、(R1)–(R3)の反応によって実は対流圏で生成されている、ということだった。海抜高度における(R1)の反応定数の計算結果を、太陽の光化学作用フラックス(solar actinic flux)、O3の吸収断面積、O(1D)の量子収率の積として図11-1に示した。対流圏でのO(1D)の生成は、300-320nmという狭い波長域で起こる。これより短い波長の放射は対流圏には到達せず、逆にこれより長い波長の放射はO3による吸収を受けない。対流圏でのO(1D)生成は成層圏よりもかなり遅いが、対流圏では水蒸気混合比が高く(成層圏より102-103倍高い)、OHの生成を速める要因として働く。1970年代のモデルでは300-320nmの紫外放射が対流圏に透過してくることを考慮したため、対流圏のOH濃度は106分子cm-3のオーダーと計算された。その結果、対流圏でのCOの寿命はわずか数ヶ月であり、COが有害となるレベルにまで蓄積しうるという問題は沈静化した。1970年代にOH濃度の大雑把な観測がなされ、それがモデルで計算された106分子cm-3のオーダーの値と合っていることから、OHが対流圏でのオキシダントとして重要であることが確認された。長寿命の成分を用いたOH濃度の間接的推定によっても、このことが確認された(11.1.2節)。低濃度であるため、OHを精度良く測定することは極めて難しく、50%より高い精度を持つ測定器は、ようやくここ10年で開発されたに過ぎない。
11.1.2 OH濃度のグローバルな平均
ある気塊中のOHの寿命は
(11.2)
で与えられる。ここでniはOHと反応する成分iの数密度、kiはその速度定数を示し、和はその気塊中の反応物全てについて行う。対流圏のほぼ全域において、COはOHの主な消失先であり、CH4はその次に重要な消失先である。その結果のOH寿命は1秒のオーダーである。このように寿命が短
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