外科離れ対策と手術教育.pdfVIP

“外科離れ”対策と手術教育 呉共済病院　三　好　信　和 　勤務医の医療現場からの立ち去りによる医療 使っての医療技術修練方法も試みられてはいる 崩壊が叫ばれて久しい。これらは産科医、小児 が、やはり手技の伝承はマンツーマン式でなさ 科医から始まり、最近では外科医の不足が問題 れているのが現状だろう。若者に外科が敬遠さ 視されてきている。厚生労働省の調査によると れるのはこのような技術習得に嫌気が差してき 外科医（消化器、心血管、呼吸器、小児外科） ているためであろうか。 の減少率は約８％で、これまで医師不足が指摘 　手術の上達の秘訣は「失敗の経験を積むこと されてきた産婦人科医の６％減よりも減少幅が だと」聞いたこともある。確かに“失敗は成功 大きいとされている。特に２９歳以下の若手医師 の母”であるが現在では手術の失敗はたとえ上 数は平成１６年調査では平成８年に比べて１，０００人 級医の監督下であろうと術者にとって命取りに 以上減少し若手の“外科離れ”が深刻である。 なる可能性がある。そうなると他の失敗例をわ 産科と小児科の医療崩壊の影で外科も着実に崩 が身に当てはめて考えられるかどうかが、上達 壊が進んでいるといえる。「外科医が一人前にな の分かれ目になる、すなわち失敗例の共有であ るのは１０年以上かかる。今はまだ４０代５０代が支 る。ビデオ画像の進歩は手術例の共有を可能に えているが早晩崩壊する。早急に“外科離れ” し、美しいビデオはよく拝見する。しかし失敗 対策を！」と考えている人は多い。国はやっと 例やその対処法のビデオ供覧にはあまりお目に 重い腰をあげ医師の増員対策として平成２１年度 かからない。「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに の医学部定員を増やしてはいるが一部の専門科 不思議な負けなし」は楽天の野村監督の言葉だ や地域に偏在したのでは問題は解決しない。 が、うまくいかなかったことには必ず理由があ 　ところで、病院の外科医の仕事は何であろう り改善することが上達の道であるということで か？日本では単に手術だけでなく、術前検査、 あろう。医療事故例では共有すべき医療事故情 周術期の全身管理、術後の follow up やがん化 報として日本医療機能評価機構から発信されて 学療法など数々の仕事が要求されている。しか いるが、手術手技上でも演者としては勇気を し外科医本来の仕事はやはり手術であろう。手 持ってまた学会全体としても教育的配慮で推進 術により病巣を切除し、患者さんが安心、安楽 してもらいたいものである。 に本来の健康を取り戻すことに勤めるのが最大 　外科医は病院に勤務しているが故に可能な の責務である。そのためには常に最新の知識? “手術”を介して自己表現しており、そのために 技術の習熟に努める必要がある。科学技術の進 日々努力しているともいえる。このモチベー 歩はかって才能のある一部の人にしかできな ションが消失してしまいそうな悪労働環境の改 かった手術を普通の人でも可能にしているが、 善が“外科離れ”対策の急務であることはもち 手術はいまだ職人技の領域が多分に存在し方法 ろんである。一方指導者にとって現