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2011 年 6 月 15 日放送 領域別入門漢方医学シリーズ 脳神経外科領域と漢方医学 八戸市立市民病院 救命救急センター 脳神経外科部長 川村 強 （１）脳神経外科における漢方医学の捉え方 今回は、脳神経外科領域と漢方医学についてお話します。５回に分けてお話したいと思 います。一つは脳神経外科における漢方の捉え方、そして、慢性硬膜下血腫と漢方、3つめ は透析時不均衡症候群と漢方、４つ目は頭痛と漢方、そして最後に脳卒中?脳腫瘍の入院 管理と漢方です。それでは、これから、脳神経外科における漢方医学の捉え方についてお 話します。 私が漢方を勉強するようになったきっかけは、元日本東洋医学会会長の松田邦夫先生が 主催された仙台での漢方基礎講座です。この漢方基礎講座は、漢方治療のファーストステ ップからセカンドステップへと進み、最後に臨床医のための漢方医学古典講座という構成 内容で行われました。それから 10年以上がたちました。本当に様々な口訣を覚えました。 冬の感染性胃腸炎に五苓散、頭痛に五苓散、車酔いに五苓散、更にめまいに五苓散、透析 時不均衡症候群に五苓散。そうしているうちに、気づいたことが２つあります。ひとつは、 1種類の処方で多くの疾患に対応できるということ。これはまさに異病同治そのものを指し ます。そして、もうひとつは、「五苓散は浸透圧利尿剤を使うような局面で登場するのでは ないか」ということです。つまり、「五苓散は急性期に適用できる」可能性があるというこ とに気づいたのです。この気付きの時から、私と漢方は切っても切れない関係となりまし た。それがまさに五苓散は経口の浸透圧利尿剤ではないかと思うようになった瞬間でした。 医師になってからの私の漢方に対するイメージといえば、長期間投与しないと効果がな い、急性期といってもせいぜい感冒に葛根湯くらいしかない、というものでした。そうな のですから、脳神経外科に漢方薬の適応があるなどといえば、私も含め、脳神経外科医か らは鼻で笑われたかも知れません。なぜならば、開頭手術ではナビゲーション誘導下に顕 微鏡手術を行い、血管内手術ではカテーテルで脳動脈瘤塞栓や頸部血管狭窄のステント留 置を行い、神経内視鏡手術では脳内血腫除去や第3脳室底部の開放を行うといった具合に、 脳神経外科が最新の医用工学の恩恵を受けながら発達してきたからです。 しかし、現在、こうした新しもの好きが集まる脳神経外科医の中にも、漢方が次第に受 け入れられつつあるのは、思いの外、急性期で漢方が適用できることが知られてきたこと と、一部ではありますが、西洋医学的に作用機序が説明できるようになってきたことが大 きいでしょう。とりわけ、このシリーズの２番目で紹介する慢性硬膜下血腫に五苓散を投 与することにより手術せずに治癒する例があること、そして、3 番目でお話する五苓散とア クアポリンの研究では、脳神経外科疾患と切っても切れない関係の「脳浮腫」への治療効 果を期待させるものがあるからです。今後さらなる応用が考えられるのが、糖尿病がある ため浸透圧利尿剤やステロイド剤を使うと血糖の管理が困難になるような脳腫瘍患者の脳 浮腫の治療です。 さて、漢方を学ぶ上で、初学者が最も混乱するのは、「証をとらえる」という東洋医学的 診察法ではないでしょうか。この「証」というのは、ある時は患者の病態をさす言葉であ ったり、またある時はその患者に最も適用される処方名であったりするため、どうも混乱 を招くようです。 病態を表す証の分類には、大きく３つのソフトウェアが存在します。ひとつは八綱で、 疾病の症状を、陰陽、虚実、寒熱、表裏の八つに分類分析する方法です。 陰陽とは、すべてを統括する概念であり、たとえば、寒がりで体温が低い、顔色が悪い 状態を陰、暑がりで体温が高い、顔が紅潮しているような状態を陽と分類します。 次に虚実ですが、抵抗力の量的な状態をみるもの、あるいは抗病力を指します。虚とは、 虚弱?空虚の意味で、病気に対しての抵抗力がなかったり、カラダの諸機能が低下してい る状態をいい、実とは、充実?充満の意味で、病気に対して抵抗力があるが、カラダにと