都市社会における相互支援ネットワーク形成過程研究の動向.pdfVIP

東京家政学院大学紀要 第46号 2006年 1 都市社会における相互支援ネットワーク形成過程研究の動向 高 橋 幸三郎  吉 賀 成 子  朝 倉 和 子  都市という独自な空間に生活する人びとは，この空間の影響を受けてどのような関係を形成し ているのであろうか。都市社会学は，この問いに対する解答を探し続けているといってよいだろ う。人口が集中している都市部では，地縁や血縁に基づく伝統的な人間関係から解放されること により，さまざまな人間関係である社会的なネットワークは「個人により選択され，選択し直さ れる」可能性が高いという知見が示されている。  ここでは，そうした知見に至る理論的な展開について，都市社会において形成される人間関係 を対象とする研究の理論モデルを検討し，現代の状況を下位文化修正仮説として，都会人による 相互支援のネットワーク形成過程を分析するための枠組みを中心に考察した。 キーワード：障害者家族，都市社会，相互支援ネットワーク形成 はじめに どのように変化したであろうか。あるいは，都市  今日では障害児・者のいる家族は「障害者家族」， 社会で生活する人は，家族・親族，友人，近隣の 介護を要する人がいる家族は「介護家族」と呼称 関係づくりをどのように行っているのだろうか。 されることがある（土屋葉，2002年）。こうし 都市社会学は，そこで生活する人間関係の形成メ た家族の生活を維持していくための支援には，家 カニズムを探求してきたといえる。ここでは，こ 族が相互支援のネットワーク（インフォーマルな のメカニズム解明の理論モデルとして「伝統的な 人間関係）を形成していくことが求められる。都 地域関係の衰退モデル」「伝統的な地域関係の存 市という独自な空間に生活する人びとは，この空 続モデル」「伝統的地域の絆からの解放モデル」 間の影響を受けてさまざまな人が関係を形成して 「下位文化モデル」を取り上げて考察する（松本 おり，そこに生活する人によって展開される人間 康,2004年） 関係を理解するための枠組みは，障害者家族のさ まざまなネットワーク形成過程の調査に有益な知 見を提供する。そこで本稿では，都市社会の人間  都市社会学の古典的な理解では，近代化と共に 関係を社会学では，どのように捉えられているの 伝統的な都市社会の人間関係は衰退するとした。 かを先行研究のレビューを行うことによりラフに この見解には2つ意味が含まれている。都市に 1� おける人間関係の衰退は，封建的で「拘束」的な 描き出すことにしよう 。 人間関係から個人を「解放」する意味と，個人を Ⅰ．都市化に伴う人間関係の変容 伝統的な地域の血縁や地縁という関係から切り離  近代化により都市で生活する人びとの関係は， し「孤立」させ，人間が生きていくための支えを 失わせるという双方の問題が含まれていると考え 人文学部人間福祉学科 られる。（森岡清志，2000年） -�107�- 2 都市社会における相互支援ネットワーク形成過程研究の動向  20世紀になって始まるシカゴ学派の都市社会 われたことが決定的な効果を生むという見解であ 学は，こ