の歴史社会学と都市社会学の学問構造.pdfVIP

の歴史社会学と都市社会学の学問構造 藤田弘夫 概要 日本の社会学者は都市社会学者にかぎらず，何よりも「現代」社会の研究者であること に意義を見出してきた. したがって，都市の歴史社会学的な研究は多くはなかった. もっ とも，これも都市の定義や控史社会学をどう考えるかでかなりの違いがある.日本は都高 社会学をアメリカから導入した.アメリカの都市社会学はアメリカ社会の非歴史的性格を 反映して，麿史への関心が欠知している.このため日本の都市社会学は最近までほとんど 控史に関心を持ってこなかった. 現在，都市社会学者は歴史家の研究に影響を受けながら研究を進めている.これに対し て，都市社会学者の歴史家への影響は少ない.矢崎武夫の統合機関理論による日本都市の 発展史，中川清の生活構造論による近代化論，藤田弘夫の権力論による都市の発生論や飢 餓論などわずかしかない.とはいえ，最近の佐藤香の社会的移動論，中筋直哉の身体の本 源的対他相関性論などにもとづく研究は，新しい歴史社会学的研究の可能性を拓いている. この意味では，都市の歴史社会学的研究はようやく，はじまったばかりである. キーワード 7つの都市の概念，二つの都市社会学研究，シヴイツク・ソシオロジー，L.マシフォード，奥井復太 郎 I.都市の歴史社会学とは 近年，歴史社会学を名乗る研究が着目を集めている.社会学の研究は最新の現象を扱う ことが特徴だ、っただけに，研究の新しい動きを感じる.ヨーロッパでは，社会学は程度の はあれ，歴史性を持って語られてきた.昨.ウェーバーをはじめ多くの学者が歴史社会 学の研究を進めた.イギリスでは歴史社会学 CHistoricalSociology)のタイトルをもっジャ ーナルが刊行されている. 117 特集歴史社会学 これに対して，アメリカの社会学は歴史の浅い国だけに，歴史的関心をもっ研究者は少 なかった.それでも， G.ホーマンズやC.テイリーなどの歴史社会学的研究が知られて いた.とくにG.ホーマンズの中世イギリスの農村の研究は歴史家の関で高く評価されて きた.ところで， 日本では，社会学はアメリカ以上に， r現代J社会の社会学だ、ったので ある.社会学者は新しさを競った.歴史社会学は農村や家族においては盛んに研究が進め られたが，研究成果の割には地味な分野となっていた. 都市の歴史社会学研究は目立った研究分野ではなかった.だが，欧米では，都市の歴史 社会学的研究が多様なかたちで進められていた.ヨーロッパでは早くから W.ゾンバル ，ト M.ウェーバーによって都市の歴史社会学的研究が進められてきた.また，アメリカ では， L.マンフォード， G.ショーパークなどが都市の歴史学的研究を進めてきた.任本 でも，柳田園男が都市の社会学的側面を扶り出す研究を進めてきたばかりか，奥井復太郎， 矢111奇武夫など都市社会学者が研究を蓄積させてきた. とはいえ，実際には都市の膝史社会学的知識を蓄積させてきたのは，歴史家であったと いっても過言ではないだろう.それに加えて，地理学者，建築史家，都市計画家なども 都市の歴史社会学的考察を行っている. したがって，都市の歴史社会学の状況につ いては，多様な都高の歴史的研究のどこまでを，都市の歴史社会学の研究と考えるかであ ろう.歴史学者の都市研究に歴史社会学の名前を与える例もしばしば見られるが，それで は都市の歴史社会学的研究は際設なく広がってしまう.そうしたことを避けるには，都市 の概念規定とともに，歴史社会学の概念をどのように考えるかが，大きな問題となってく る.ここでは，社会学者による自覚的な都市の歴史的研究を姐上に乗せることとする.そ れでも，都市の歴史社会学的な研究は実に多様な形態で展開されている.このため都市の 歴史社会学的な研究に関しては，研究の〈内包〉と〈外延〉をどのように考えるかにかか っている.そのr~祭，問題としなければならないのが，都市概念の多様性であり，また都市 社会学の学問としての認識論的構造に関する問題である. 11.都市の概念と都市研究のニ重性