デザインの社会性をめぐって -oaka-g.pdfVIP

デザイン社会学・デザイン環境論ケーススタディ―――7 デザインの社会性をめぐって ―――USD フォーラム・レポートより――― 西 尾 直 ◆はじめに るように、デザインの社会性をめぐる話題の間口は限り 本論の基本的な枠組みは、1996年6 月開催されたUSD なく広い。今回のUSD フォーラムで展開されたさまざま フォーラム（大阪デザイン団体連合〈USD-O〉主催）に な論議の折り目を整える意味で、きわめて漠然としたこ おける筆者の基調提言と、後日刊行されたレポートを下 のテーマに対して、基本的な二つの側面を考えている。 敷きとしている。したがって本論は、原則として大阪に その第一は、デザインと人々の営み（社会）とのかか おけるデザイン環境の現状分析に基づいている。 わりの中に含まれる本質的な機能の再認識であり、これ このフォーラムでは、基本テーマ「デザインの社会性」 を日常的なデザイン活動を通じたデザイナー個々の視点 をめぐって、USD-O 加盟 12 団体の代表約80名が参加した に置き代えてもよい。 バズセッションの成果に大きな期待があった。［※5］ そして第二に、現代の社会構造の中に組み込まれたひ こうしたテーマに、初めて正面から取組んだデザイン とつの社会機能としての位置および、その周辺との関係 団体の意欲が、従来とは明らかに異質な刺激を含んだ社 の確認であり、言い代えれば、社会を構成する一単位で 会環境の著しい変化に根差していたからである。 あるデザイナー社会からの視点がある。 一方、デザインもしくはデザイナーの社会的側面をめ 前者をデザイナーの職能的な自覚の範囲とすれば、後 ぐる論議と言えば、もともとデザイン社会学・デザイン 者は社会的な枠組みを背景とする意識の開発だから、こ 環境論自体の主題だから、これまでのケーススタディで、 のふたつが無関係ではあり得ないにせよ、目標への道筋 すでに指摘したいくつかの問題との重複が少なくない。 は必ずしも一本ではない。したがって、本論では、この その詳細はレポートに委ねるが、デザイナーの関心の ふたつの側面から、二通りのアプローチを試みたい。 対象としてはなじまなかったこのテーマが、デザイナー 自身に直結する課題として、ようやく理解されつつある 第一章 人々の営みの中で 意識の流れを、多くの発言の中に実感している。 デザイン現場と学術研究分野との間に、デザインの社 ◆ひとつの社会機能としてのデザイン 会性に対する意識と姿勢の共有を期待したこの研究活動 ここ数年来、デザインの社会性をめぐる話題がデザイ の目標に、少し前進したかも知れない。 ン関係者の間にしばしばとり上げられるようになったの はじめに述べた筆者の基調提言を補足する意味も含め は、経済効率最優先という長年わが国を支配した社会正 て本論を、このフォーラムにおけるさまざまな論議に対 義がゆらぎ始めて、デザインへの取り組みにも、まっと するひとつの解答とも考えている。 うな潮の満ちてきた兆しであろうか。 ◆デザインの社会性をめぐる二つの側面 そう思えば、いま明らかな逆風の中でデザインの停滞 現代社会におけるデザイン機能の及ぶ領域がそうであ を憂えることよりも、デザイナーそれぞれのデザイン思 想を改めて問い直す貴重な機会と思えるの