社会福祉基礎構造改革と「ケアの自律」介绍.docVIP

社会福祉基礎構造改革と「ケアの自律」 　　　　　　　　　　　リソースセンターいなっふ　岡部耕典 ■利用者本位 社会福祉基礎構造改革のキーワードとして「利用者本位」ということばがあるが、その字義を確認すれば、「福祉サービスの供給において、考えや行動の基準を供給者ではなく利用者におく」ということになる。一方で、９０年代から障害者運動の側でよくつかわれるようになった「当事者主体」とは、「障害をもつその人は、自分自身の人生の主人公として、生活や生活に必要な支援の在り方を決定し運営することに自覚的?意志的に参加し、イニシアティブをとる権利をもっている」という意味の言説である。 この両者を見比べてみると、後者が、利用者を全人格的?全生活的にとらえつつ、その個人の権利性と社会の責務を明確にする概念であるのに対して、前者では、福祉サービスを利用する個人を「福祉サービスの提供者＝事業者」を対立概念とする「福祉サービスの利用者」の側面に限定し、かつ「本位」ということばでその権利性はあいまいにぼかされていることがわかる。 社会福祉基礎構造改革が、真に利用者を制度の中心に据える改革を目指したのならば、自分自身の人生の主人公としての福祉サービスの利用者像や利用者の権利及びそれに対応する公的責務が、本来もっと明確に確認されるべきだったのではないだろうか。 ■利用制度化／給付制度化 　「利用者本位」の理念が制度化されたのが「福祉サービスの利用制度化」である。「利用制度化」とは、福祉サービスの利用を措置権者の行政処分に基づくものから利用者による事業者との利用契約に基づくものへと転換させることであり、それにより「利用者の選択による福祉の利用」が実現すると喧伝されたわけである。しかし、ここで焦点があたっているのは、あくまで「福祉における利用者と事業者の関係」であり、「福祉の公的責任（＝利用者の受給権）」は背景に沈んでいる。 一方で、社会福祉基礎構造改革によってもたらされた制度変更としては、利用制度化だけでなく「福祉サービスの（現金）給付制度化」もある。「給付」ということばは、現物（物品及びサービス給付）にも、現金（金銭給付）にも用いられるが、「保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付をおこなうため」の制度である介護保険制度や「（福祉サービスの利用に）要した費用について、支給する」とされる支援費制度は、健康保険と異なり「混合診療」も可能な「現金給付」の制度である。 利用者が事業者と利用契約を結ぶということは、その結果提供されるサービスの対価の支払いも利用者によっておこなわれるということが当然含意されているということからいえば、制度的には利用制度化と給付制度化は表裏一体である。それにも関わらず、「利用者の選択による福祉」とか「事業者本位から利用者本位へ」という政策側のキャッチフレーズが直接焦点化してきたのは、利用制度化のみであった。加えて、実際の受給のプロセスにおいても「市町村は…当該指定居宅支援事業者に、支払うことができる」とされた「代理受領」といういわゆる「できる規定」であったものが実質的にはスタンダードとされてしまったこともあり、給付制度化されたこともまた、利用制度化の背景に沈んでいる。 　しかし、いうまでもなく実際のサービスの利用過程は給付制度のありかたに大きく左右される。一般的な市場において、商品の選択権のみが利用者に与えられてもその対価が支払えなければ購買関係は成立しないのと同様に、公の費用負担と民によるサービスの供給が前提となる擬似市場(quasi-market)においては、その購入に見合った公的資金の投入なくして「サービスの選択」という利用者の意思決定は現実化しない。このように考えると、利用制度化が目指した措置権に基づく行政の意思の優位を転換するという制度変更が、単なる公的責任の回避あるいは逆に「財布の紐を握る」行政のイニシアティブの強化に結果しないためには、給付制度化にも大いに着目し利用者の受給権を確認しておかなければならないといえるのではないだろうか。 ■受給者本位 つまり、福祉サービスの利用制度化が利用者のイニシアティブの強化と福祉サービスの擬似市場における消費者主権主義の実現へと結果するためには、利用者が必要とするサービスを購入可能とする給付をうけることそのものが、権利として確認されていなくてはならない。そこで、福祉サービスのための給付制度をこのような受給者の「権利本位」の制度とすることを「受給者本位」と呼ぶこととしたい。 　加えて、「利用者本位」が機能するためには、「専門家の判断に従っておけば間違いないので、素人は専門家に全てを任せ、専門家の判断に従うべきである」という姿勢は廃されなくてはならない。一般市場の消費者主権主義の用語法でいえば