敦煌莫高窟第 249 窟、第 285 窟天井壁画の制作过程について ―魏晋 ....pdfVIP

6 月 1 日 （日） 900 番教室 10:40〜11:20 敦煌莫高窟第 249 窟、第 285 窟天井壁画の制作過程 について ―魏晋南北朝時代における墓葬美術 との関係を中心に― 神戸大学 田林 啓 北魏末か ら西魏初に開鑿されたとされる敦煌莫高窟第 249 窟、第 285 窟の天井壁画は、仏教的モティー フと共に墓葬美術 に用い られる神仙図像 を多 く描 く。このような窟は、莫高窟において後にも先にも存在 しない。この天井壁画に関する先行研究の多 くは、各図像の特色に見合 う記載を持つ文献資料を主な根拠 としてその世界観を考察するとい うものである。また 2 窟の神仙図像表出の背景には、北魏末の東陽王元 栄の瓜州赴任 に伴 う中原文化の流入があると一般にされる。本発表は、図像様式及び構図に着 目すること で、2 窟の天井壁画制作の経緯を考察するとい うものである。 2 窟では畏獣像、多人頭獣を頻出させるとい う共通点を持つ一方、第 249 窟では龍 ・鳳車を、第 285 窟 では伏羲 ・女媧をそれぞれ出現 させるとい う違いがある。また、構図としては第 249 窟では全披面に龍 ・ 鳳車、阿修羅等の中心モティーフを設け、他の神仙図像 をそれに付随させるのに対 して、第 285 窟では中 心モティーフを設けずに東披以外の各披面の神仙図像は西披の中央へ向けて一斉 に奔走する様子を表す。 そ して、画法的には両窟共に西域的な濃い暈染が未だにみ られるとい うことが指摘 される。 次 に魏晋南北朝時代の墓葬美術 を概観すると、仏爺廟湾西晋墓、嘉峪関新城墓等の敦煌周辺の墓では畏 獣像や伏羲 ・女媧のみが 2 窟 と共通するが、北魏末の洛陽出土爾朱襲墓誌 （西安碑林博物館蔵）、瀍河石 棺 （洛陽古代芸術館蔵）等では多 くの神仙図像及び構図が 2 窟 と共通 し、仏教的モティーフもみ られる。 そのため、2 窟は北魏末の洛陽墓葬美術の影響を受けたといえる。そして、その影響は畏獣像のみを壁面 最下層に表現 した同 じく北魏末開鑿の河南省鞏県石窟を介 さず、より直接的なものであったと考えられる。 更に洛陽墓葬美術の神仙図像の構図を分析すると、第 249 窟の構図の方が第 285 窟の ものよりも墓誌蓋等 の重要視 される画面に採用 され、第 285 窟の方が下位の ものであるといえる。これは、第 285 窟は第 249 窟 と異な り、天井以外の壁面にもそれ以前の窟には見 られなかった強い主張を持 った新たな図像を表 した 為であると考えられる。 しか し、洛陽の墓葬美術及び 2 窟に最 も多 く登場する畏獣像の様式に着 目すると、洛陽墓葬美術像では 必ず備 えている褲の先端か ら布を出す等の要素を 2 窟の ものでは備 えていないことに気づ く。そ して第 249 窟像、第 285 窟像 と同様の様式を持つ畏獣像は、それぞれ仏爺廟湾西晋墓、梁代の南京蕭宏墓石碑に みることができる。また、第 285 窟に描かれたような伏羲 ・女媧も洛陽ではみることができず、嘉峪関新 城墓や仏爺廟湾西晋墓では存在 した。これによって 2 窟の天井壁画には洛陽の強い影響があったものの、 一部の図像は敦煌周辺の墓葬美術や部分的に伝わってきた南京墓葬美術の ものを採用 していたといえる。 そ して、それは一つに中原か らの新来の工匠によってではな く、西域的画法を用いる敦煌既存の工匠によ って制作 された事に因ると思われる。 33