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日本流体力学会数値流体力学部門Web 会誌 第 12 巻 第 3 号 2005 年 1 月 魚の胸ひれ運動と水中ロボットへの応用 Motion of Pectoral Fin of Fish and Its Application to Underwater Robots * * 加藤直三 ， 鈴木博善 *大阪大学大学院工学研究科 * * Naomi Kato and Hiroyoshi Suzuki *Graduate School of Engineering, Osaka University E-mail: kato@naoe.eng.osaka-u.ac.jp １ はじめに 地球には海、川、湖沼の中で生きる数万種におよぶ動物たちの世界がある。かれらは何億 年もの悠久の歴史を進化しながら生きぬいてきて、それぞれの環境のもとで色々な運動形態 を持って生きている。水中ロボットの開発の歴史はわずか４０年ほどしかなく、水棲動物た ちの歴史から見れば、一瞬の出来事にしかすぎない。それだけに水棲動物たちの持つ色々な 機能から学ぶことは多い。 近年、母船とケーブルで結ばれていない自律型水中ロボット（AUV)の開発が盛んになって きた。これまで開発されてきた AUV は一定速度で進む巡航型のものである。水棲動物でいえ ば、マグロやカツオなどがそれに当たる。AUV が潮流中を浮遊状態である場所にとどまって 海底などの観察を行ったり、海中・海底ステーションとドッキングをしたりする場合、姿勢 を安定化する必要がる。また AUV が浮遊状態において腕で物をサンプリングする場合は腕の 動きによる反作用で体が動いてしまい姿勢制御がさらにむつかしくなる。従来はスクリュー 式の推進機を幾つも水中ロボットに付けて位置や姿勢の制御を行っていた。しかし、AUV が 停止状態で位置や姿勢の制御を行う場合、スクリュー式推進機には正負の推力を迅速に発生 するのが難しく、これによって波浪や潮流の非定常の外乱の中では、細かな位置や姿勢の制 御を行うのが難しいという欠点がある。さんご礁や岩礁地帯での魚の遊泳を見ると, 波浪や 潮流の外乱の中でも, 非常に高い操縦性能を示している。 そこで、この停止状態での姿勢制御を水棲動物ではどのように行っているのかを見るため に、研究室の学生たちに淡水魚のブラックバスを近くの沼で釣ってきてもらい、その泳ぎ方 の観察を行った。観察から胸ひれで前後方向に水をかいたり（前後運動）、付け根を中心にひ ねったり（回転運動）、上下方向に振ったり（上下運動）する動きが、素早い旋回や姿勢の保 持に役立っていることを突き止めた。これまで、このような操縦性能の観点から水棲動物の 運動機構の研究はあまり行われていなかった。 2 胸ひれ運動 2.1 三次元胸ひれ運動 143 © 日本流体力学会 日本流体力学会数値流体力学部門Web 会誌 第 12 巻 第 3 号 2005 年 1 月 これまでの生物学的研究から、魚の胸ひれの動きは、上下振動を中心とした型 （ここでは、 Ａ型と以下呼ぶ）と、前後振動を中心とした型（ここでは、Ｂ型と以下呼ぶ）に分かれる。 Ａ型のものは、長く翼形状をしていて、Ｂ型の胸ひれの形状は、短く丸くなっている。Ａ型 の胸ひれの運動は、胸ひれを前後方向にほぼ水平に保ち、それにひねりを加えながら、上下 方向に８の字を描いていることがわかっている。一方、ブラックバスは B 型に属する。Ａ型 の胸ひれの運動は、胸ひれから発生する上下方向の揚力の前進方向成分を前進する力として 用いてい