鳥取講演2010.12.19（その２）.pptVIP

家本誠一氏の『素問』『霊枢』研究や橋本浩一氏の著書『内経気象学入門』（緑書房）などが示す、古代鍼灸を気象医学として理解するのもその一つである。 春夏秋冬、四季折々の天地の気のなかで生きている人間の出来事として、病気と健康を捉える。病因論や病気観を深めてくれる。 〈天人合一〉の医療の現代版は、気象医学のみを意味しない。さまざまな応用が可能であり、治療論や人間観を豊富にしてくれる。 ひとは宇宙と自然の気に応じて生き、生かされているということは、社会?政治関係、働き方、生き方、食べ方、呼吸、運動、魂と心の持ち方、人間関係のすべてのリズムが、健康と病気、治癒のわざに関係しているということである。 あらゆるものが病気の原因になり、癒しをもたらす恩恵になる。病気の原因も無数なら、治癒のプロセスも宇宙大に無限である。 たくさんの治療法があり、多くの流派に分かれ、われこそは唯一の治療法だと名乗りをあげているが、そんなことはない。ひとが病から解放される道はただ一つではない。それがひとの可能性である。 あまりにも技術主義になった医療の在り方を検討し、宇宙の全体性との絆を取り戻すことによって癒される未来医療を作ること。それは二千年前に〈天人合一〉の思想から生まれた懐かしい古代鍼灸への、現代的な回帰を意味しているだろう。 　　　　　　参考文献　松田博公著 『日本鍼灸へのまなざし』 　　　　　　　　（ヒューマンワールド、2010年6月） 鳥取県鍼灸マッサージ師会講演 2010.12.19　 松田博公 「人と天地相参じ、日月と相応ずるなり。」(『霊枢』歳露論） 「人は天地の気を以って生まれ，四時の法を以って成る」(『素問』宝命全形論） 「天は陽たり、地は陰たり、日は陽たり、月は陰たり、大小月三百六十日一歳を成し、人またこれに応ず。」（『素問』陰陽離合論） 「人に四経十二従有りとは，何の謂いぞや。岐伯こたえて曰く、四経は四時に応じ、十二従は十二月に応じ、十二月は十二脉に応ず。」(『素問』陰陽別論） 「経脉十二は、以って十二月に応ず。」(『霊枢』五乱） 「夫れ古より天に通ずる者は、生の本もって、陰陽に本づく。其の気、九州九竅、皆天気に通ず。九分れて九野となり、九野は九蔵となる。故に形蔵四（※胃、大腸、小腸、膀胱）、神蔵五、合して九蔵となりて以って之に応ずるなり」(『素問』六節蔵象論） 「人の天道に合するや、内に五蔵有り、以って五音、五色、五時、五味、五位に応ずるなり。外に六府有り、以って六律に応じ、六律は陰陽諸経を建てて之を十二月、十二辰、十二節、十二経水、十二時、十二経脉に合する者なり。此れ五蔵六府の天道に応ずるゆえんなり。」(『霊枢』経別） 　『内経』は天人合一の書であるという説を確認するために、問題を立ててみよう。 五蔵六府はなぜ五蔵六府であって、七蔵六府でもなければ、五蔵八府でもないのか。 それは解剖による観察の結果、定まったことなのか。 「今『内経』には、五蔵五府、五蔵六府、五府六蔵および六蔵六府の四説が併存している。」（趙洪鈞） 「黄帝問いて曰く。余、方士に聞くに、或いは脳髓を以て蔵となし、或いは腸胃を以て蔵となし、或いは以って府となす。敢えて問う、更（こも）ごも相い反するも、皆自ら是と謂う。願わくは其の説を聞かん。岐伯対えて曰く。脳?髄?骨?脈?胆?女子胞、此の六者は、地気の生ずる所なり。皆陰を蔵して地を象どる。故に蔵して写さず。名づけて奇恒の府と曰う。夫れ胃?大腸?小腸?三焦?膀胱、此の五は、天気の生ずる所なり。其の気は天を象どる。故に写して蔵さず。此れ五蔵の濁気を受く。名づけて伝化の府と曰う。此れ久しく留めること能わず、輸写するものなり。水穀久しく蔵することを得ず。」（『素問』五蔵別論） 「いわゆる五蔵とは精気を蔵して写さざるなり。故に満して実すること能わず。六府は物を伝化して蔵さず。故に実して満つること能わざるなり。然るゆえんは、水穀は口に入れば胃実して腸虚す。食下れば腸実して胃虚す。故に実して満せずと曰うなり。」（『素問』五蔵別論） ここでは、“胆”は奇恒の府とされていて、六府の一つとはされていない。 「胆は、奇恒の府（蔵して泻さず）で、同時に府（泻して蔵せず）である」とは言えない。 こうした矛盾はほかにも少なくない。『素問』霊蘭秘典論では、十二藏あるいは十二官が論じられているはずなのに、脾胃が１つの官とされ、十一官が説明されているだけ。“膻中”という臓器について語られてもいる。脾は果たして蔵に属すのか、府に属すのか。 「黄帝問うて曰く、願わくば十二蔵の相使貴賤は如何を聞かんと。岐伯対えて曰く、悉（つ）くせるかな問うや、請いて遂くに之を言わん。心は君主の官なり。神明ここに出づ。肺は相傅（補佐する）の官なり。治節ここに