桃崎祐辅福冈大学人文学部-九州大学.pdfVIP

2014 年７月19 日・20 日 山の神古墳出土遺物検討会 「山の神古墳出土馬具の検討－２セットのｆ字形鏡板付轡・扁円剣菱形杏葉の年代とその意義－」 桃崎 祐輔（福岡大学人文学部） Ⅰ はじめに 山の神古墳には、２セットのｆ字形鏡板付轡＋扁円剣菱形杏葉が副葬されていた。福岡県糸島市古賀崎古墳、 佐賀県潮見古墳でも２セットのｆ字形鏡板付轡が出土したが、こうした事例は全国的にも珍しい。 ｆ字形鏡板付轡が成立した５世紀後半は「人」制の時代、大型化した６世紀は「伴部」や「靫負」の時代であ る。よって山の神古墳の２セットの馬具も、こうした倭王権の制度と転換を反映していることが予測される。 Ⅱ 山の神古墳馬具の内訳 ５世紀（中期）に出現したｆ字形鏡板付轡・剣菱形杏葉は、鉄板や金銅板を単純な幾何学形に切り抜き、 これに曲げた鉄棒や鉄環を組み合わせる形式が主体である。これに対し６世紀（後期）には、穿孔技術の 向上を背景とした透彫技術や飾鋲打によって、馬具の形式や意匠が多様化し、大型の鏡板・杏葉からなる 装飾馬具と、素環轡からなる実用馬具の階層分化や使い分けを前提としている。また馬具のパーツの組み合わせ には形式差を越えた互換性と、排他的な個別性の共存が示されている。よってアセンブリッチ把握が求められと ともに、馬具研究が最終的に目指すものは、必然的に馬装復元と、その社会的意義の解明となる。 遺物群 遺物 対比資料 備考 山の神初葬Ａセット ｆ字形鏡板付轡 静岡県石ノ形（ＴＫ23～ＴＫ47） 吊鍵金具は８鋲 （ＴＫ23～ＴＫ47） 扁円剣菱形杏葉 唐津市ツカサマ古墳 苅田町番塚古墳 瓢形杏葉 福泉洞東亜大１号墳 鉄地銀張 木心鉄板張杓子形壺鐙 井田川茶臼山・ シオデ鉸具 金銅製栗形座金具付 山の神追葬Ｂセット ｆ字形鏡板付轡 奈良県新沢178 号墳（ＴＫ43） （ＴＫ10～ＭＴ85） 鳥取県家ノ後口１号墳（ＴＫ43） 大分県飛山４号横穴（ＴＫ10～ＴＫ43） 扁円剣菱形杏葉 奈良県新沢178 号墳（ＴＫ43） 群馬県前二子塚古墳 組合式十字形辻金具 銀張二重刻目責金具使用 判断保留 木心鉄板張杓子形壺鐙 福岡県番塚・小正西・峯ヶ塚 三重県井田川茶臼山・滋賀県鴨稲荷山 鉸具 １ Ａセット ｆ字形鏡板Ａ１（九州国立博物館保管分）は、現存状態で全長17.5 ㎝、高さ11.9 ㎝を測る。ｆ字形鏡板Ｂ（九 州大学保管分）は現存状態で全長17.4 ㎝、高さ10.7 ㎝を測る。いずれも鏡板は鉄製地板＋文様縁金＋金銅板＋ 鉄製金銅被鋲で、３枚の金属板を鋲で結合したものである。瓢形杏葉３枚は地板鉄板＋サンドイッチ金銅板＋鉄 製縁金からなり、吊金具の形状より横一列の胸繋として制作された可能性が高い。これに対して扁円剣菱形杏葉 ４枚は鉄地板＋縁金＋金銅板１枚被せで、縦方向に懸垂されて尻繋の一端を構成していたと考えられる。 ２ Ｂセット 多鋲打ちのｆ字形鏡板・垂直二等分線のある剣菱形杏葉のセットである。ｆ字形鏡板Ｂ（九州大学保管分）は 全長24.3 ㎝、高さ9.1 ㎝を測る。扁円剣菱形杏葉は全長25.8 ㎝、幅13.3 ㎝を測り、鉄地板＋縁金＋金銅板１枚 被せで、縦方向に懸垂されて尻繋の一端を構成していたと考えられる。また組合十字形辻金具類は脚部幅がＢセ ットの立聞と一致する。環状雲珠も同様で、いずれもＢセットを構成していた可能性が高い。