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表象文化論実習I (木曜4限?河合教官) 　　　　　　　　　　　　　　表象文化論4年　　　40012C　　　北村　紗衣 『リア王』とおとぎ話の世界 　『リア王』の筋立ては悲劇的なものであり、いかにも重厚な歴史書から題材を取ってきた古代ブリテンの歴史劇であるように見える。しかしながら『リア王』物語には歴史書などの書かれた物語ばかりではなく口承民話の影響も強く見受けられる。このレポートではシェイクスピアがどのような作品をソースとして『リア王』を書いたのかを押さえつつ、この劇における民話の影響について考察することとしたい。 　『リア王』の物語のソースとして有名なのは、1587年に出たホリンシェッドの『年代記』である。この年代記にはリア(Leir)という王がゴノリラとリーガン、コーデイラという三人の娘の愛を試す問答を行い、そっけない応答をしたコーデイラを放逐するが、結局二人の姉娘に虐待されてコーデイラを頼り、コーデイラが父リアを助けてブリテンの女王になるという物語が描かれている。シェイクスピアの『リア王』と最も違う点は末娘のコーデイラが生き残ってブリテン女王になっている点であり、この点は悲劇的なシェイクスピアの結末とは対照的なものとなっている(ただし、コーデイラの甥たちが後に反乱を起こすということになっている)。リアやコーデイラは実在の人物ではないと考えられているが、この物語はイギリス国内では有名だったようであり、ホリンシェッド以外にもThe True Chronicle History of King Leirという作者不詳の作品が1590年に出版され、シェイクスピアの『リア王』の種本の一つとなったと考えられている。リア王は実在の人物ではないと考えられているが、その物語は古くからあるもので、最も古いものとしてはジェフリー?オブ?モンマスが1136年にラテン語で出版した『ブリテン王年代記』がある。スペンサーの『妖精の女王』第二巻第十編にもこのリア王の物語がブリテン史の一部として登場するし、また『王侯の鑑』The Mirror for Magistratesという詩にもリア王が登場する。脇筋はフィリップ?シドニーの『アーケイディア』からとってきており、他にも様々な資料をソースとして利用していたようである。 　しかしながら架空の人物であるリア王の物語は、ジェフリー?オブ?モンマスやホリンシェッドらによって歴史書にまとめられる以前から存在していた口承物語に多くを負っている。というのも、『リア王』のプロットはイギリスの伝統的な民話「藺草ずきん」‘Cap o’Rushes’によく似ているのである。『藺草ずきん』はシンデレラ物語の一種であり、アールネ / トムソンの民話インデックスではシンデレラが510A、藺草ずきんと「金と銀と星のドレス」が510Bとなっている。「藺草ずきん」は別名「愛は塩の如く」などとも呼ばれるおとぎ話で、マリアン?ロールフ?コックスの調査によるとヨーロッパの広い地域に存在する民話であるが、とくにイギリスに類話が多いようである。この物語のあらすじは以下のようなものである。 金持ちの紳士が三人の娘に自分をどれほど愛しているか尋ねる。一番上の娘は命と同じくらい、二番目の娘は全世界よりも、三番目の娘は生肉に塩が必要なくらいだと答える。三人目の娘の言葉を気に入らなかった父は娘を追い出し、捨てられた娘は藺草のずきんをかぶって美しい姿を隠し、女中としてある大きな家で働く。藺草ずきんと呼ばれるようになった娘は、三日続けて開かれる舞踏会の時、こっそり藺草ずきんを脱ぎ捨て、もとの美しい服を着て身元を隠して主家の息子と踊る。主家の息子は藺草ずきんの名前を知ろうとするが果たせず、藺草ずきんに指輪を与える。すっかり恋煩いに陥ってしまった息子は料理人におかゆを作るように言うが、藺草ずきんが料理人にかわって料理をし、その中に例の指輪を潜ませる。指輪を見つけた息子は誰がおかゆを作ったか調べ、それが藺草ずきんであると知る。藺草ずきんはもとの美しい姿に戻って息子と結婚し、披露宴に父を呼ぶ。ところが披露宴の料理には塩が一切入っておらず、まずくて食べられたものではない。塩がない肉がいかにまずいものか知り、三人目の娘を追い出したことを後悔する父親に対し、藺草ずきんは身元を明かして父と再会を果たす。 このように、「藺草ずきん」は虐待された娘が身分を隠して高貴な男性と知りあい、持ち物による認知の場面（この場合指輪、シンデレラは靴）を経て結婚するという点でシンデレラとほぼ同じタイプの物語として考えることができる。「藺草ずきん」の初めの部分は『リア王』にそっくりであり、コックスは先程あげた「藺草ずきん」の研究において、このように愛情テストによって三番目の娘を父親が放逐するタ