环境正义EnvironmentalJustice-土木学会.PDF

「環境正義(Environmental Justice)」の実像とその計画プロセスへの展開* Environmental Justice and Planning: Reality and Possibility* 谷口守** ・松中亮治** ・山本悠二*** By Mamoru TANIGUCHI** ・Ryoji MATUNAKA** ・Yuji YAMAMOTO*** 1．はじめに 価値判断がどのような形で現実の計画プロセスに取り込 まれつつあるかについて，具体的な試みからの抽出を通 近年，環境に関わる意思決定の場面で 「環境正義 じて今後の展開に言及する．前者の分析についてはネッ (Environmental Justice)」という用語が散見されるよ トを通じた情報収集，後者については，各国の学術専門 うになってきた．ただ，その内容や実態は十分に研究さ 誌に基づく情報に主に依拠することとする．また，英語 れている訳ではない．一般的な概念整理としては， 「環 圏と日本を分析対象とした． 境正義」には人間中心的(anthropocentric)な視点と生 態中心的(ecocentric)な視点の両極があり，その中間的 2．「環境正義」の実像 なカテゴリーも含め，その考え方には幅があるとされて 1) いる ．このうち前者の人間中心的な考え方として， (1)米国型 「環境正義」の論点 「環境による恵みを万人が等しく受ける権利がある」と まずはじめに，「Environmental Justice」という用 いう例があげられよう．また，後者の生態中心的な視点 語が広く使用されている米国に着目して検討を行なう． からは， 「人間の活動による影響を生態系に及ぼすべき 米国では市民生活がより便利で豊かになった反面，環 でない」という考え方もこの中に含まれよう． 境問題が深刻になるという現代社会における典型的な矛 一方，現実の環境に関わる計画では，規範的な計画テ 盾が生じている．特に，特定の社会，文化，民族集団や ーゼの提示や合意形成の試みだけでは解決できない障害 人種がこの弊害をより多く受けてきた事実があるが，そ が数多く発生している．例えば，計画テーゼに対する の実態は着目されてこなかった．具体的には，有害廃棄 2) 「アンチ・プランニング・ムーブメント」 の発生や， 物施設，農薬散布，自然資源開発などに起因する問題を 表立っては障害を発生させない｢社会的フリーライダー｣ 受けたマイノリティや，関心を持つ研究者たちによって 3) の存在などは，そのような障害の典型例ということが 運動が展開され始めた．その流れは 1990年代以降， できよう．上記した 「環境正義」の幅広い定義に基づけ 「環境正義」という名称で大きく取り上げられるように 4) ば，このような新しい課題に対し， 「環境正義」を規範 なった ． として導入した計画プロセスは効果的な 「説得の論理」， 転機となったのは，クリントン大統領が 1994年に発 5) もしくは 「規制の論理」を提示できる可能性を秘めてい 令した行政命令 12898号 で，連邦政府諸機関が上記の る． 概念に基づく 「環境正義」に配慮することとなった．同 一方で， 「正義」というタームの中には論理を超えて 時に，環境保護庁内には環境正義事務局が開設され，全 相