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松塾資料③ 天地陰陽をからだに写し入れる 　　　　　　　　　　　　　　　　　　2012.10.6（増補Ver. 2012.11.3） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　於?神田、都師会 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松田　博公 〔鍼灸術と同じく、「気」の思想は、世界中にあった〕 鍼灸は中国が生んだ、気の思想は中国特有と言ったとたんに、思考停止に陥る。 新石器時代にさかのぼれば、世界は一つである。道具は木と石と土器、手作業、火の文化であり、宗教もシャーマニズムである。 『素問』異法方宜論には、中国大陸の東?南?西?北?中央の5つの地域で、砭石（へんせき）、鍼、薬、灸、導引が生まれたと記載され、それが長く信じられてきた。 　黄帝問医 　岐白地勢東、魚塩民魚魚人熱、塩血。民皆癰瘍治砭石東方。 西方、金玉、民陵風、水土剛強。民食邪病生。、西方 　北方は地高、陵風寒冽。民乳食。寒病。治灸。灸、北方。 南方陽。地、水土弱、霧露。民食。民皆赤色。病。治微鍼。九鍼南方。 ?中央、地民食病痿厥寒熱。治導引按蹻。導引按蹻、中央出 　自然環境、生活が異なれば人々の体質、病証、病因も異なる。治療方法もその地域に適した方法を取らなくてはならないと述べている。（中医学ではそれを因地制宜、因時制宜、因人制宜と法則化している） 1991年、ヨーロッパ?アルプスの氷河から発見された5200年前の男性の遺体（「アイスマン」）の腰椎、右膝、距骨関節および左のふくらはぎなどには入れ墨が施されていた。1947年、南シベリアのアルタイ山中、パジリク古墳から発掘された男性のミイラにも同様の個所に入れ墨が見られた。それらは、鍼治療の跡だと推定され、新石器時代には、ヨーロッパからシベリアにかけての広い大陸で、素朴な鍼治療が行われていたという仮説が浮上した。 【左】1991年にアルプスで発見された5200年前のアイスマン。 【右】南シベリアのアルタイ山中で発見された男性のミイラ。 （吉田集而「鍼灸の起源を考える」『全日本鍼灸学会雑誌』2000; No.50-4） 「万物を構成する生命的な要素」という気の概念も古代世界には、共通して存在した。中国の「気」には、自然の「風」、人間の「息」、そこから抽象化された「生命力」「神気」「魂」などが含まれるが、インドの「プラーナ」、ギリシャの「プネウマ」、ヘブライの「ウーアハ」、ローマの「アニマ」も、言葉は違っても同じことを意味していた。 もともと、世界中にあった思想、技術が、中国において固有の発展をとげた。他の地域では発展しなかったのに、なぜ中国では発展したのか。（鍼灸術に似た医療思想、技術は、エジプト、ギリシャ、中南米に存在したが、体系化されていない） その理由を問うことが、鍼灸術や気の思想を体系化した中国文化を問うことになる。さらに、中国式の鍼灸術、気の思想を日本式に変容させた日本列島の文化を考えることにつながる。 〔中国の気の性質（坂出祥伸先生のまとめ）〕 第一に、生命体、非生命体を問わずともに「気」からなると考えられている。星も「気」であり、鉱物も「気」である。 第二に、「気」は宇宙に充満しており、始めも終わりもなく、連続していて分割できない。十一世紀、北宋時代の哲学者?張載はこう言っている。「気は太虚（はなはだしく空虚）な空間に限りなく満ちていて、運動変化していて、いまだかつて休止したことがない。陰陽の二気が感応し、凝集や散布を起こすことに風雨や雪霜となる」「太虚とはいっても、そこに気はいつでもどこにでもある。気が凝集すると万物が出来る。その形が滅びると散っていって太虚に帰る」と。ここには、「気」の運動の循環的変化が示されているのであるが、自律的で必然的な運動なのである。さらに、この運動は「自然無為」なものであって、なんらの目的もない。 第三に、「気」の連続性ということと関係があるのだが、部分と全体とは相互に関連しあっているという点であり、このことは近代科学の自然観と根本的に異なる。鍼灸医学の身体観において、この点は明確に現れている。望診で患者の顔を見て診断を下すのは、顔面部の体表上に現れている「気」の状態にもとづいて身体全体の状況が把握できるという考え方である。??部分が部分だけで切り離されているのではない。部分に全体が反映されている。あるいは部分と全体は切り離せないというのが「気」の身体観である。 第四に、世界に終末が到来しても「気」は滅びることがないから、かならず再生する、という考え方がある。 第五に、「気」の循環的変化は近代科学のように因果律による説明ではなくて、感応作用にもとづいている、と説明される。『周易』という儒教の経典に対する唐時代、七世紀の学