小仓幸惠长谷部直幸-旭川医科大学.pdfVIP

日本臨床 (2007.09) 別冊 循環器症候群II:308-311. 【循環器症候群 その他の循環器疾患を含めて】 冠循環系の先天性形 態・走行異常 単冠動脈症 小倉幸恵, 長谷部直幸 ① 標題 単冠動脈症 ② 英文標題 Single coronary artery ③ 共同執筆者 長谷部 直幸 ④ 著者所属名 旭川医科大学 循環・呼吸・神経病態内科 ⑤ 英文著者名 Yukie Ogura, Naoyuki Hasebe ⑥ 英文著者所属名 Division of Cardiology, Department of Internal Medicine, Asahikawa Medical College キーワード ･単冠動脈症 ･先天性冠動脈奇形 ･先天性心疾患 1. 概念･定義 単冠動脈症 (single coronary artery) は先天性冠動脈奇形 (congenital anomalies of coronary artery) の一種である．冠動脈の開口部が１つのみであり，その唯一の冠動脈によって心筋全体が 1) 血液の供給を受けるものと定義される ． 1) 単冠動脈症は先天性冠動脈奇形の中でも比較的稀であり，Sharbaugh ら が文献的に0.04% 2) の頻度と報告している．また冠動脈造影では，Yamanaka ら が126,595 例中56 例 (0.044%)， 3) Desmet ら が50,000 例中33 例 (0.066%) に認めたと報告している． 2. 分類 本症の分類は1950 年にSmith 4) が提唱した．Type Ⅰは左右いずれか１本の冠動脈が正常心と 同様に走行し，その末梢がもう一方の冠動脈に連続するもの，Type Ⅱは右あるいは左の冠動脈が 大動脈から起始した直後に２分岐し，正常の左，右冠動脈と同様に走行するもの，TypeⅢは上記 のいずれにも属さない非定型的な走行をとるものである．この中でType Ⅱが約半数を占めると報 1) 告されている ．1979 年にLipton はそれぞれの臨床的意義の違いから更に細かく分類した (図 5) 6) 1) ．Shirani ら も20 型の詳細な分類を提唱しているが，現在のところLipton 分類が最も広 2) く用いられている．型別頻度としてYamanaka ら は56 例中Lipton R- Ⅰ型1 例，R- Ⅱ型19 3) 例，R-Ⅲ型5 例，L- Ⅰ型20 例，L- Ⅱ型が11 例だったと報告している．Desmet ら やShirani 6) ら の報告を見てもLipton R- Ⅰ型は単冠動脈症の中でも極めて稀な型であるといえる． 3. 病因 単冠動脈症は先述のように冠動脈の先天性奇形の一種である．心臓の発生の過程で、冠循環系 は胎生初期には存在せず，心臓は筋線維を織り合わせた緩いメッシュ状をなし、心筋が血液につ かった状態で収縮を始める．心筋が密度を増し，筋束が平坦化してできた深い陥凹に心室腔が形 成され，さらに大動脈が総動脈幹から分割形成された後の胎生7 週目に冠動脈が大動脈 ( ときに は肺動脈)から萌芽する．その後冠動脈は急速に成熟し，大きな分枝は心表面に伸び，小枝は心筋 を取り巻く毛細血管に枝分かれする．この時期の何らかの原因で冠動脈の発生過程に異常が起き 単冠動脈症が発生する． 4. 病態 本疾患では約40%にFallot 四徴症，大血管転位，大動脈二尖弁など他の先天性心疾患を合併す る1）が，合併しない場合、通常は無症候である．しかし他の心奇形を伴わない症例においても突 然死や虚血性心疾患，心不全，伝導障害が起こ