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京都大学防災研究所年報 第 53 号 B 平成 22 年 6 月 Annuals of Disas. Prev. Res. Inst., Kyoto Univ., No. 53 B, 2010 洪水による被害推定手法の高度化に関する研究 * 小林健一郎 ・寶 馨 *京都大学 学際融合教育研究推進センター 極端気象適応社会教育ユニット 要 旨 本研究では洪水による直接被害（家屋被害，作物被害）の推定手法について述べる。基 本的な考え方としては洪水氾濫シミュレーションを構造格子型で実施し，グリッドセルで 出力された浸水深情報を詳細なベクトル型データに属性化することにより，家屋一棟一棟、 農地一区画一区画毎の経済被害リスクの推定を可能とする。本稿では，まず，滋賀県竜王 町により整備されたベクトル型データを用いた家屋・農作物被害推定手続きを紹介する。 その後，佐用川流域全体を対象に構造格子で統合型の降雨流出・洪水氾濫同時解析を実施 し，これによる浸水深に基づいた経済被害推定を行い，実態の経済被害と推定経済被害を 比較する。本稿の経済被害推定手法の汎用性は高く，かつ構造格子型で広域の降雨流出・ 洪水氾濫解析の有効性を示すものである。 キーワード: 降雨流出・洪水氾濫解析，家屋被害，作物被害，佐用川，日野川，竜王町 1. 詳細な洪水直接被害推定手法の提案 この場合，最大浸水深を代表値として採用する。例 えば最小値あるいは平均値なども属性候補となりえ 1.1 ベクトル型データの有用性 るが，最大値を取る場合が洪水防御計画としては安 図1は滋賀県竜王町により整備されたGIS フォーマ 全側で最も妥当だと考える。 ットのベクトル型デジタル地図である。この電子地 この方式であれば図2 で浸水深が低い地域でも図3 図では家屋・構造物，田畑，道路などがポリゴンデ では大きめの浸水が生じる事がある。各区画（ポリ ータとして整備されている。一見してわかるように， ゴン）内に障害がないのであれば各区画で浸水深が この詳細なベクトル型のデジタルデータによって， 同一の方が現実により近いと考えられる。また，図3 構造物や田畑の正確な形状が認識できる。例えば， のようにベクトル型で浸水深を表現することにより， 図1中の赤色の長方形ポリゴンは家屋・構造物を示し， 各家屋や田畑の所有者は各々の資産が浸水している 緑色の長方形のポリゴンは田畑を示している。 かどうか，浸水深はどの程度かを判断しやすくなる。 シミュレーションによる浸水深をグリッドセルで こうした情報は