自己効力感に関する研究の展望と今後の課題.pdfVIP

Kyushu　University　Psychological　Research 2012，　Vol．13，　1－9 自己効力感に関する研究の展望と今後の課題 一展望的自己効力感の提唱一 西村　　薫　　別府溝部学園短期大学 野村　亮太　　九州大学大学院人間環境学研二院 丸野　俊一　　九州大学大学院人間環境学研究院 Kaoru　Nishimura　（Beppu　Mizobe　Gakuen　College） Ryouta　Nomura（Faculij，｛ゾ撫〃2an－E〃γか。〃〃2en’Studies，　Kjvvrshu　Universめノ） Shunichi　Maruno　（Faculty　of　Human－Environment　Studies，　Kyushu　University） Key　Words：　self－effi7cacy，　change，　perspective　self－efficacy うるのかを述べていく。最後に，臨床の場で考えられる 　Bandura（1977）は，自己効力感を行動変容を説明す る心理的現象として概念化した。自己効力感とは，ある 心理的支援について論じ，今後必要とされる研究の指針 状況において，ある結果を達成するために必要な行動を を示す。 自分がうまくできるかどうかの予期のことである （Bandura，1977）。自己効力感は，容易に測定が可能で 自己効力感 あり，操作することができ，操作の結果として行動変容 を生じさせる。更に，当事者にとっても理解し易い概念 　自己効力感とは，ある状況において，ある結果を達成 であり，自己効力感の上昇の結果，行動が生じることを するために必要な行動を自分がうまくできるかどうかの 実感することも可能であることが分かっている。これら 予期のことである（Bandura，1977）。　Bandura（ユ977）は， の特徴は，行動の改善を行う上で不可欠であり，心理的 行動遂行の先行要因として「効力予期（outcome　expec－ な支援という意味において，その臨床的な意義は大きい （坂野・前田，2002＞。本論では，支援において特に重要 の認知的変数を取り上げ，2つの関係を行動とその結果 になる自己効力感の変化という側面に注目した時に，従 生じる一連の過程について次のようにまとめている 来の理論だけでは説明されない不十分な点が残されてい （Fig．1）。「結果予期」とは，ある行動がどのような結果 ることを指摘する。その上で，残された課題を解決する に至るかという予期であり，「効力予期」とは，その結 ために展望的自己効力感という新たな概念を提唱する。 果を生み出すために必要な行動をうまくこなすことがで 　残された点を理解していくために，まずは，自己効力 感に関する心理学的研究の2つの流れである領域固有の 人 行　動 結　果 自己効力感および一般化された自己効力感について，そ の概念と実証研究を概観していこう。その後，新たに展 望的自己効力感の概念を提唱し，これが従来の自己効力 感概念で十分に説明できなかった変化を，いかに説明し Fig．1効力予期と結果予期の関係（Bandura，1977） 2 九州大学心理学研究　第13巻　201起 きるかという予期である。そして，彼は，ある課題や状 　これを受けて，Sherer　et　al．（1982）は，「一般化」の 況において自分がどの程度の「効力予期」を持っている 次元に注目し，自己効力感を2つの水準に分けることが かを知覚することを自己効力感と呼んでいる。 可能であることを指摘した。1つは，課題や場面に特異 　彼は，特に自己効力感の持つ行動への予測機能を重視 的に行動に影響を及ぼす領域固有の自己効力感であり し，自己効力感が実際の行動を規定する決定因の1つで あり，自己効力感の上昇が行動の遂行へとつながると想 は，具体的な個々の課