技術の進歩に対する期待尺度開発に関する一考察.PDFVIP

京都教育大学教育実践研究紀要 第 12 号 2012 117 技術の進歩に対する期待尺度開発に関する一考察 ―プロトタイプ尺度の構成― 藤川 聡 （京都市立桂川中学校） A Study on Developing an Expectation Scale about Technological Progress －Construction of Prototype Scale－ Satoshi FUJIKAWA 2011 年 11 月 30 日受理 抄録 ：本稿は，中等教育を終えた生徒が技術の進歩に対してどの程度期待しているかを測定する「技術の進 歩に対する期待尺度」の開発を目指し，その予備実験として尺度のプロトタイプを構成し, 検証した結果を まとめたものである。構成したプロトタイプ尺度を用いて京都の大学生及び大学院生を対象に調査し，得ら れたデータから尺度項目を主成分分析した結果，「豊かさ期待成分」と「妄信的期待成分」の２成分で説明さ れた。また再検査のデータで同 じ尺度項目を主成分分析したところ，尺度項目の一次元構造が確認できた。 プロトタイプ尺度は，外的基準との相関においても有意な方向を示し，本実験を通じて「技術の進歩に対す る期待尺度」の開発に向けた有益な知見が得られた。 キーワード ：期待尺度，主成分分析，豊かさ期待成分，妄信的期待成分 Ⅰ．はじめに 近年，技術の進歩はめざましく，家庭生活や社会生活において労働の負担軽減や時間短縮，情報の正確で素早 い入手等に大きく貢献している。また，実用性のみならず，文化や娯楽などの分野においても人々の生活を豊か にしている。その反面，技術の進歩は，自然環境の破壊や資源・エネルギーの浪費，情報の氾濫や情報の活用に 関するモラルの低下，人間関係を希薄にする等の様々な問題を生じさせていることも事実である。技術の進歩に は常に「光と陰」の部分が存在する。しかし，技術が持つそれらの本質的な特徴を考慮せず，進歩する技術に対 して妄信的に期待する人々や，過度に危険視する人々の姿が見られる。それらは筆者ら１）が指摘している。 義務教育において「技術」について学ぶ唯一の教科である，中学校技術・家庭科技術分野（以下，技術科）で は，技術への関心を育む指導事項として「技術が生活の向上や産業の継承と発展に果たしている役割について考 ２）が示されている。そして，最終的な教科の目標 えること」「技術の進展と環境との関係について考えること」 ３）ことが求められている。技術科の学習でそれらの として「技術を適切に評価し活用する能力と態度を育てる」 能力を身に付けることができれば，将来，技術が持つ本質的な特徴を理解した上での，健全な「技術の進歩に対 する期待」が持てるはずである。しかし，現在の急速な技術の進歩のもと，中学校の学習で得た「技術を適切に 評価し活用する能力と態度」が将来にわたり持続しているとは限らない。そこで，「技術の進歩に対する期待尺 度（以下，期待尺度）」の開発を試みるに至った。中等教育を終えた段階で，生徒が技術の進歩に対してどのよ うな期待構造を持っているかを調べることは，技術教育，環境教育をはじめ，あらゆる分野での授業改善に役立 つと考える。 本稿は，中等教育を終えた生徒の，技術の進歩に対する期待構造を測定する期待尺度を開発するための予備実 験として，5 項目からなる尺度のプロトタイプを構成し検証した結果をまとめたものである。検証は京都の大学 生及び大学院生を実験協力者として行った。授業改善のための診断的・形成的評価に役立つ，有益な期待尺度の 開発を見据えて，プロトタイプ尺度の構成と実験及び検証を試みる。 118