がん診療におけるアウトカム評価―がん征圧の臨床科学.pdfVIP

JACR Monograph No. 7 がん診療におけるアウトカム評価―がん征圧の臨床科学基盤― Evaluation of Outcomes in Cancer Prevention, Detection Treatment -Scientific Basis for Cancer Control- * 1 * 2 福島 雅典 多田春江 がんの医療、研究に携わるもののゴールは、 とは認識されていない。がんの発生率そのも いうまでもなくがんの征圧である。ひとくち のが統計的に低下することは大変なことであ に征圧といってもそれはがんのメカニズムを り、これは 1 つや2 つの治療の飛躍的な進歩 解明すればできるというような単純なもので があったからといって実現するものではない。 はない。がんの医療は、患者さんのがんとの 現在、がん医療のパラダイムは治療から化 現実の戦いであり、がんの征圧は、がんの予 学予防の方向に着実に向かっている。また化 防、早期診断から適切な治療、さらに満足の 学療法も、肺癌を含めほぼすべてのがんにつ いく終末期医療までの包括的なスペクトラム いて外来での投与が可能となり、治療方法は ではじめて評価されるべきものであり、それ 入院から外来へとシフトしつつある。この流 は実行可能な限り、直ちに実現しなければな れは末期の患者に対しても同様であり、かつ らない課題である。したがって、がん研究を てのがん治療のイメージからは大きく様変わ 続けていけば将来においてある研究が実を結 りしている。われわれはがん征圧への道とし び、がんが征圧されるだろう、というような て、がん治療の現状についてそれぞれの局面 無責任なかたちでがんの征圧を議論したり、 のアウトカムを評価し、より患者さんが満足 そこに研究投資を行うということは、全くも できる医療を提供できるようにすべきである。 って愚かしい考えといわざるを得ない。 そのような道を実現するには当然のことなが 米国のSEER（Surveillance, Epidemiology and ら、十分なサンプルサイズで周到にデザイン End Results）プログラムによる全米がん統計 された大規模臨床試験が必要であり、今後は （http :///）を肺癌についてみる 個別化されたコントロール（Tailored Control）、 と、1998 年の最新データによれば米国では、 つまり個別化予防（Tailored Prevention）、個別 1980 年代から国家的取り組みとして強力に 化治療（Tailored Therapy）を目指す薬理遺伝 推進した禁煙政策の効果がはっきりと現われ 学（Pharmacogenetics）の研究