工学院大学建築系学科近藤研究室2000年度卒業論文梗概.docVIP

補修?補強用構造締結部材の開発と締結強度の向上 一之瀬和夫＊ Peizheng LIN＊＊　若林博之＊＊＊ 小林光男＊ 後藤芳樹＊＊＊＊ 小久保邦雄＊＊＊＊ キ－ワ－ド：非線形有限要素解析，構造解析，構造締結，締結設計，塑性座屈 　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　1．緒 言 円管の塑性座屈を利用した片側締結ボルトは締結時のトルク管理により一定の軸力での締結が可能であり，作業効率が優れた締結法として，すでに建築業界などで実施されている(1)。片側締結ボルトは図１に示すようにボルト頭部の外径が被締結物の下穴の穴径より小さく，ボルト頭部側から被締結物の下穴に挿入することが可能である。長さの中央部に焼鈍した円管とスリーブがボルト頭部とシャーワッシャとの間にセットされ，専用締付ツールを用いてボルトを引き抜くことによって，円管が圧縮され，円管長さの中央部に座屈バルブ（座屈により膨らむ部分をバルブと呼ぶ）が形成される。このバルブが通常のボルトの頭部に替って，被締結体を締結する。 ボルトの締付特性に関しては，さまざまな研究が行われてきた(2)～(4)。さらに，ボルトの緩み，および疲労強度を向上させる塑性域締付けなどについても，有限要素法解析と実験によって解明されつつある(5)～(9)。円管の塑性座屈を利用した片側締結ボルトは高力ボルトとして利用される場合，高い設計軸力が要求されている。締結要素の機能を担うバルブの形成過程，および締結過程における円管の接触変形挙動はこの締結体の強度と信頼性に強く影響をおぼすことから，これらの解明が要求されている。 このような観点から，著者ら(10)（11）は，実験と有限要素法を用いた解析により，円管の形状パラメータによる円管の座屈バルブの形成と荷重，およびその後の締結過程における円管の変形挙動と締結荷重への影響を調べた。 本報では，この検討結果について報告する。本文の一部論文(10)（11）の内容をそのまま用いている。 2.　片側締結ボルトの締結原理 片側締結ボルトは図1に示す６つの部品から構成され，片側から締結できることが特徴である。図2に片側締結ボルトの締付け手順を示す。まず，長さ ＊：工学院大学工学部機械システム工学科教授，＊＊：日本軽金属(株)グル－プ研究センタ-， ＊＊＊：株式会社フセラシ品質保証部，＊＊＊＊：工学院大学工学部機械工学科教授 の中央部を焼鈍した円管とスリーブをボルト頭部に装着し，これらを被締結体の下穴に挿入する。つぎに，同図(a)でスリーブの上部におかれたシャーワッシャとワッシャを組んだのち，ナットとボルトによりこれらを固定する。続いて，(b)で，ボルトを上部へ引抜くと，ボルトの軸力が円管に作用し，焼鈍されている円管の中央部には座屈バルブが形成される。この後，(c)で，さらにボルトを引くと，円管を固定するシャーワッシャがせん断されることにより，座屈バルブは通常のボルト頭部に替って被締結体を締結する。(d)により所定軸力でボルトの円環溝部が破断されて締結工程を完了する。 3．供試材 　締結用円管材料は冷間圧造炭素鋼SWCH17Rである。表1には，調質処理材SWCH17Rと，円管長さの中央部に焼鈍処理を施したと同一条件で試験片の全長を熱処理したSWCH17R (焼純材)の引張試験による機械的性質の値を示す。降伏応力では，調質処理材SWCH17Rが660MPa，焼鈍処理材SWCH17Rでは427MPaとなっており，前者に比べて後者の値は約35％小さい値である。引張強さの値では，調質処理材SWCH17Rに比べて，焼鈍処理材SWCH17Rは約26％小さくなっている。材料の伸び率では，焼鈍処理材SWCH17Rが38％，調質材SWCH17Rが22％，焼鈍処理材SWCH17Rは1.7倍大きくなっている。片側締結ボルトは，円管の塑性座屈バルブがボルトの頭部の役割を担い，座屈過程と締結過程において座屈バルブに割れが発生しないことが前提である。焼鈍処理材SWCH17Rは材料の伸び率が大きくなるため，座屈バルブの形成およびその後の締結において有利である。 実験に使用した円管の形状パラメータを表2に示す。円管の外径が20.5mmであり，構成する片側締結ボルトはボルトM20に相当する。 円管の中央部は焼鈍処理により軟化している。硬さ試験により，円管の長さ方向におけるA-1肉厚中 心部の硬さ分布を測定し，その結果を図3に示す。試験体A-2は試験体A-1の両端からそれぞれ3.3mmを削りとったもので，A-1の硬さ分布からA-2の硬さ分布も分かる。図3から，試験体は円管の両端部の