歯科医院経営と歯科医師家計経営-oshu.docVIP

歯科診療所経営環境の現状と将来　　 歯科診療所経営と“歯科医師家計経営” ＝2012年版＝ 明海大学歯学部客員教授　 赤石健司 　 ＜はじめに＞ 　永年、漸減傾向を辿ってきたわが国の歯科医療受療率は、1997年9月の「社保本人2割負担」導入以降10年間以上、長期的かつ大幅な減少を続け、当然のごとく診療報酬の大幅な減少をも伴っています。 このような状況下、当時の政府は国民及び歯科界の強い反対を押し切り、2003年4月には「社保本人３割負担」を強行しました。このことにより、我が国の歯科医療需要「潜在化」は一層拡大深化することになったのです。 一方で、いわゆるTPP参加による「混合診療」実施に向けての議論も活発化し、日本歯科医師会?日本医師会及び医師の多くは反対の姿勢を示していますが、歯科医師の多くは賛成意見を表明し、医療者間での意見は大きく分かれ、今後の医療改革運動に大きな影を落としています。 この混合診療については、稿を改めて細述したいと考えていますが、「今後、保険診療は給付領域の拡大も、点数増額も殆ど認められないのだから」「自費に誘導し易くなるから」というような近視眼的視点のみで議論することは極めて危険であると考えます。 多くの歯科医師は、これら「社会保険医療体制の縮減?形骸化」が、歯科界全般にどのような影響を与えるのか、自らの歯科診療所の将来はどうなるのか、大きな不安を持ちながら見守り続けています。 このような中、政府や与野党は、「国民総医療費削減」を声高に主張しながらも最近では「医師増大」を積極的に主張し始めています。過去の「医師削減」政策は誤りであり、産科?小児科医師を始め、「医師不足が深刻である」との理由から、急速に医師を増やし、既に医学部定員増の結果は5医科大学?医学部新設に匹敵する数となっています。 今後、ますます勤務医師の待遇改善を断行していくことによる医師不足解消を図ることでしょう。結果「国民総医療費削減」は有名無実化していくことになるでしょう。 しかし、一方で国家財政再建の為には「医療」「年金」の破綻回避は絶対的条件でもあり、今後、「歯科医療費削減」「高齢者医療費削減」「薬価差益削減」などを矢継ぎ早に打ち出し、実質的に患者自己負担の急速な拡大が図られていくことでしょう。この中に、しっかりと「混合診療」をビルト?インしてくる筈です。 このような情勢下、歯科界はまさに四面楚歌であり、自らの相対的な政治的?社会的力量の減退と相俟って、新たな戦略的の再構築を迫られているのです。 過去、歯科界においては、「医療費本人負担の増大」「歯科医師急増」「長期不況」が、歯科診療所経営を悪化させた主因だとする意見が大勢を占め、自らの生存をかけて、また、自らが実現可能な「歯科医師急増阻止」のみを戦略の中心に据えてきました。 このこと自体に非は唱えませんが、過去あらゆる業界?団体において「マクロ的縮小均衡（小さくなったパイを、少なくした数で分け合う）路線」の先には、豊かな未来が実現できなかったことを忘れるべきではありません。マクロ的には歯科界はこれからも混乱と調整が続くことでしょう。このような中、ミクロ的すなわち個別歯科診療所次元において、今、何をすべきなのでしょう。 実はここでも「縮小均衡（収入減に対応するため、極限まで支出を抑える）路線」が強く主張されています。 多くの税理士?公認会計士?経営コンサルタントは「経費縮減」「バランスシート（資産を処分して負債返済に当てる＝負債縮減＝）経営」すなわち「縮小均衡」が、現時点における最良の経営手法であるとし、その実施を強力に指導しています。（私は、この経営手法については、幾つかの疑問を感じていますので後述します。） 歯科診療所経営者たる歯科医師の多くは、この税理士?公認会計士?経営コンサルタントの指導に粛々と従いつつも、「この延長線上に果たして明るい未来が存在するのか」との疑問が湧き上がり、「子弟への医業承継の是非はおろか、自らの歯科診療所が経営破綻?廃業に追い込まれてしまうのではないか」という不安を拭い去ることができません。 果たして歯科診療所の将来はマクロ的にもミクロ的にも、暗く閉ざされたものであり、いかなる手段を以ってしても良化しないものなのでしょうか。 この答えは、歯科界全体、特に歯科診療所経営者たる歯科医師自身が、歯科界及び歯科診療所経営を取り巻く政治?経済?社会情勢及び自診療所の主体的力量を精緻に分析し、これらを基本とした新たな抜本的?具体的なマクロ?ミクロ戦略を再構築し、果敢に実施すること以外に道はありません。 　 そこで、ここからは、いくつかの歯科界全般に関わる政治?経済?社会情勢を検討してみましょう。 ＜歯科診療所経営を取り巻く