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社会保障と関連する理念や哲学2
第
2
章
社
会
保
障
と
関
連
す
る
理
念
や
哲
学
第2章 社会保障と関連する理念や哲学
前章では、社会保障を産業資本主義の形成及び発展と関連づけて説明した。本章では視
点を変えて、社会保障と関連する理念や哲学を概説する。理念や哲学によって、社会保障
や国家の役割についての考え方も大きく異なることも、併せて把握する。
(以下に挙げる理念や哲学が全てではないが、代表的と考えられるものを取り上げる。)
第1節 自立と連帯 ~「自立した個人」を、連帯して支える~
(近現代の社会の人間像は「自立した個人」だが、人間はひとりでは生きていけない)
まず、社会保障がどのような理念?哲学によって実際に根拠づけられてきたかを説明す
る。近現代の社会は、人々の自由や個人の尊重に対する願望を叶え、「自立した個人」を
目指してきた。自分にとって何が大事かは自分が決め、自分の生活は自助努力で成り立た
せていくことを基本とした。一方、この過程で、人間は自らの力だけでは生きていけない
ことも経験する。このような中、人々はどうやって問題を乗り越えてきたのだろうか。以
下では、フランスで生まれた「連帯」という理念?哲学を説明する。
(19世紀には、貧困等の格差問題が深刻になる中で、自由主義と社会主義が激しく対立し
た)
個人が社会の中で生存している以上、人間は家族、職場、地域社会等、様々な形で、他
者と接触する中でしか生活し得ないというところに「連帯」が発生する根源がある。その
意味で、連帯は古今東西を問わず、人類社会に常に存在している。
英国同様にフランスにおいても、19世紀に入ると多くの社会問題*1が発生した。富め
る少数の資本家とは対照的な多数の労働者の貧困、労使対立の激化、蔓延する病気、頻発
する労働災害、悲惨な住宅事情、教育を受けられない子どもたちの存在――こうした深刻
な事態を打開すべく多様な社会主義的思想が誕生し、一定の影響力を持つようになっては
いたが、なお自由主義思想の方が優勢であった。
悲惨な社会状況を見ても、自由放任の経済学を信奉する経済学者たちは、私有財産の不
可侵を主張し、国家の役割はもっぱら個人の自由と財産を他者による侵害から守ることに
あり、苦しんでいる人々に手を差し延べるのは、あくまで私的な慈善(チャリティー)に
よるべきだとした。
他方、社会主義者たちは、国家が生存権を保障することは義務であり、私的所有は資本
家の不正や搾取によって得られた特権に過ぎず、国家の介入によって労働者が労働の果実
を正当に受け取れるようにしなければならないと考えた。
(「連帯」は事実であり、義務でもある)
調停不可能なほど両者の考え方の対立が高まり、現実の社会問題も改善されない厳しい
状況の中、当時活躍した法律家?政治家で、後に国際連盟の初代理事会議長となりノーベ
*1 フランスにおいて「社会問題(question sociale)」という言葉が使われはじめたのは、1830年代初頭と指摘されている。(参考文献:
田中拓道『貧困と共和国――社会的連帯の誕生――』(人文書院,2006年)pp.78-83)
第1部 社会保障を考える
平成24年版 厚生労働白書 19
1
第
2
章
社
会
保
障
と
関
連
す
る
理
念
や
哲
学
ル平和賞を受賞したレオン?ブルジョワ*2(Léon Victor Auguste Bourgeois, 1851-
1925)が主唱したのが「連帯」の考え方の再構成であった*3。ブルジョワは、その著書
『連帯』(1896年)において、(当時の)生物学、生理学的医学の成果が示すのは、有機体
(例えば、人体)の中の諸組織?諸器官相互の関係で行われているのは、適者生存の競争
ではなく、「連帯」であることを説明する。そして、生に向けてあらゆる要素が協調し、
相互に依存し、結合しているという「自然的事実としての連帯」が生命にとって必要不可
欠な法則である(そうしなければ死滅する)ことを繰り返し確認する。その上で、社会に
生きる人間に固有の目的である正義を実現するためには、自然の連帯法則に任せたままで
はならないと主張した。つまり、人間社会が発展させてきた自然的連帯は、分業の著しい
進展と産業化という成果を生み出したが、それに伴う社会問題をも発生させたため、修正
を加えることで正義を実現しなければならないと考えた。
ブルジョワが科学的?道徳的双方の観点から再構成して提示した「連帯」の体系は、
①まず、人間社会には、人の意思にかかわらない自然的事実としての連帯(「事実として
の連帯」)が存在していることが出発点であるが、
②人間社会には別途、義務的な性格を有する「義務としての連帯」が存在する
というものである。
図表
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