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特集 ネットが創る新しい社会 「観察者化」するファン ―流動化社会への適応形態として― 時代状況の急速な流動化は、コミュニケーションや人間関係をどのように変容させているのか。 メディア論、文化社会学を専門領域として、 ファン文化に関するエスノグラフィックなアプローチをライフワークとする著者に、 具体的な事例をもとに、「観察者化」という切り口から、 不透明化する現代社会の様相を読み解いていただいた。 辻　泉中央大学文学部准教授 1976年東京都生まれ。東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得 満期退学。博士（社会学）。メディア論、文化社会学が専門。著書に『文化社会学の 視座』（共編著、ミネルヴァ書房、2008年）、『Fandom Unbound : Otaku Culture in a Connected World』（共編著、Yale University Press、2012年）など。 　ここで「観察者“化”」という表現をする以上、そこには、 はじめに 以前と比べて何がしかの変容が見られることが含意されて 　本論では、筆者がこれまでにアプローチを重ねてきたファ いる。 ン文化を事例として取り上げながら、近年、そこに見られる 　それは端的にいえば、何かを愛好するファンたちが、これ 「観察者化」とも言うべき変容について論じてみたい。 までは直接的な「当事者」としてかかわってきたのが、今日 　結論を先取りすれば、こうした変容の背景には、社会の では、ひとつ引いたメタレベルの視線から「観察者」としてか 「流動化」が存在していると考えられるが、このことは、視線 かわるようになっているのではないか、ということである。 を逆転させてみると、ファンたちの文化は、様々な関係性 　アイドルのファン文化で言うならば、2.5次元の疑似恋愛 が流動化しつつあることをうかがい知るための絶好の対象 関係の「当事者」から、アイドル同士の関係性の「観察者」 ということでもある。愛好する対象（アイドルなど）とファン、あ に遷り変わったということであり、いわばディープな「当事者」 るいはファン同士といったように、様々な関係性のパターン として深くかかわるのではなく、むしろ一定の距離を保った がそこにはちりばめられている。 「観察者」としてゆるやかにかかわりつつ、同時にファン同 　本誌が今回対象としているネット社会の広まりも、社会や 士でも「空気を読んだ」コミュニケーションを円滑に保持し 関係性の流動化の表れのひとつということができるが、ここ 続けるような現象が見られるということである。 ではそれを素朴に技術決定論的な視点から論じるのではな 　またこうした現象は、インターネット上においても、SNSや く、むしろネット社会に見られる個別の現象を議論の糸口と twitterなど、いわゆるソーシャル・メディアと親和性が高い。 して、流動化する現代社会の様相を読み取っていきたい。 一つには、特にSNSが典型的だが、それが「様々な関係 性をパッケージ化して観察対象化する装置（あるいはプラ 「観察者化」するファン文化 ットフォーム）」のようなものだからだろう。 「観察者化」とは何か 　例えば、SNS上で著名人とその友人やフォロワーとなれば、 28　●　AD STUDIES Vol.40 2012 5 ほかにどのような人とつなが