観光における文化交流の不在-大阪市立大学文学研究科.PDFVIP

都市文化研究 StudiesinUrbanCultures Vol.13，69 80頁，2011 ◇研究ノート◇ 観光における文化交流の不在 中国成都市を訪れる日本人の観光活動から 王 静 ◆要 旨 中国は世界観光の牽引車となりつつある一方，観光振興を単なる経済発展の手段としてしか捉えていない 傾向にある。筆者は，観光が果たす，異文化間の相互理解を深め文化交流を促進するという役割に着目し， 中国の観光における文化交流の欠落の実態及びその原因について検討した。 本稿では中国成都市を訪れる日本人観光者の観光活動を取り上げ，受け入れ側と観光者側双方の視点にさ らにガイドの視点を付け加え，「見学」，「食事」，「体験」，「ガイドとの交流」という四つの側面について考 察した。その結果，見学活動は短時間で最短ルートをまわるうわべのものであり，食事は現地の食文化の魅 力をアピールできていない「ツアー料理」であり，文化交流の場を提供する茶館と川劇の体験はほとんどツ アーのスケジュールに組み込まれておらず，業務に追われるガイドと交流をする時間もなく，観光者は地元 社会との文化交流が欠落している現状が明らかになった。 さらに，観光活動におけるこの文化交流の欠落の原因を，受け入れ側である行政，旅行会社，ガイドとい う観点から分析 し，中国の観光業全体に共通する「経済型観光」という構造 にあると指摘 した。ここで言 う 「経済型観光」とは，観光業が単に経済発展の有効 な手段として位置づけられた下で，最大限の利益 を追求 するためだけに品質の低い観光商品が販売 され，収入を得 るためだけという仕事観で観光現場で働 くという 観光のありかたである。今後，中国が観光大国にふ さわしい観光戦略 を考える際に，現在の「経済型観光」 から文化交流を重視する方向へ と転換 していかなければならないと考える。 キーワード ：成都市（中国），文化交流， ホスト ・ゲスト関係，観光活動，ガイド （2010年 9月 17日論文受理，2010年 11月 5日採録決定 『都市文化研究』編集委員会） 2） となりつつある。 1.はじめに 車」 しかし，中国が国を挙げて観光を推進している中で， 20世紀後半からのいわゆるマスツーリズムの隆盛に その実態はといえば，観光振興を経済発展の手段として 代表されるような観光活動の急速な拡大は，現代社会を しかとらえていない傾向が見うけられる。それによって， 特徴づける現象の一つである。中国においても，近年の 観光者数および観光収入などは増加の一途をたどっては 経済成長とともに観光は飛躍的な発展を遂げている。今 いるものの，旅行会社間の低価格競争やガイド 3） の社 後 10年（2020年）で中国を訪れる外国人観光者は 1億 会的地位の低下など，観光業を支える側の問題が深刻化 3000万人，海外旅行に出る中国人観光者は 1億人にな している。同時に，中国を訪れる外国人観光者は，地元 り，中国は世界第一の観光者受け入れ国，第四の送り出 社会の人々やガイドなどの受け入れ側と交流ができず， 1） し国という観光大国になると予測されている 。中国で うわべだけの観光となっているようにも思われる。世界 は観光業が国民経済の基幹産業として位置づけられ，各 観光に大きな影響を与えていく観光大国である中国にとっ 地域とも地域経済の活性化のために観光振興に力を入れ て，観光のあり